「あと1時間を切ったな」

セイジが言った。

『島主』が島を作り直すために今の島を消す時間は、あらかじめ予告されていた。

毎日朝晩に放送される「Miiニュース」を『島主』は楽しみにしている。今日も例外ではなかった。

なので、夜7時を過ぎたら、という事であった。

「こうなったらカウントダウンでもしようかしらね。年越しの時みたいに」

マキが言った。


部屋に置いてるソファにもたれて2人は座っていた。

2人は、何することもなく、ただ一緒に座っている、という感じだった。

マキは床に視線を落としながら、こう言った。

「・・・別に、この島を消す日を予告しなくても、突然消しちゃってもいいじゃない・・・」

「・・・マキ?」

「予告した方が、余計に最終の時まで何したらいいかわからないじゃないの・・・」

「何だよ急に」

「もう・・・『島主』さんったら、何考えてるのかしら・・・」

「おい。どうしたんだよ」

そう言ってセイジはマキの顔を覗き込んだ。

どちらかというとマキはサバサバした性格なのだが急に弱音に近い事を言い出したので驚いたのだ。


-----マキの瞳から、ひとすじの涙が流れていた。


「マキ・・・?」

「・・・あ。」

涙を流しているところをセイジに見られ、とっさにマキは、こう言った。

「あ・・・。め・・・眼鏡の度が合ってないのよ!」

もちろん、本当に眼鏡の度が合ってないのかどうかは、一目でわかる。

しかしセイジは、「そうか、眼鏡の度が合ってないんだな」と言って、マキの頭の自分の胸の所へ引き寄せた。

「僕も最近、眼鏡の度が合ってないんだ」

と言って彼は、手のひらをマキの頭に乗せ、撫で始めた。

この姿勢、どう見てもマキは子ども扱いされているようにしか見えない。

「・・・もうやだ、子供扱いしないでよ・・・」

「僕にとってはマキは子供だよ」

「・・・もう・・・」

マキはそう言って、セイジの胸に顔をうずめた。

2人の年の差は一回りである。セイジがマキより一回り年上なのだ。

「今度2人で眼鏡屋さんに行って、眼鏡の度を合わせてもらおうか」

-----・・・もうっ・・・。今度なんてないんだから・・・

マキは、その言葉を言わなかった。



カチッ☆

夜7時が訪れた。

「Miiニュースの時間だな」

セイジが言った。

「・・・」

何も言わずにマキは、ギュッとセイジの服を強く掴んだ。


・・・しかし。

夜8時を過ぎたのだが、一向に島及び住人が消える気配がないのだ。


「どうしたのかしら・・・」

「やはり島を消す迷いがあるんじゃない?」

「でも、消すという予告をした以上は消すんじゃないかしら。あとで“やっぱやめまーす”って話には、なりづらいかもよ」


さらに時間が経ち、夜10時になった。

「もしかしたら、『島主』は、寝てしまったのかもしれないな」

「その可能性もあるかもね」

『島主』は、この島を支配する主なのだが、こことは違った別の世界で生活している。

なので、こちらの世界の住人からは、『島主』がどうしているのかはもちろん、考えもわからないのである。


「眠い・・・」

セイジが言った。

「今日は島が消える日だから、1日中気が張ってたからねえ。私も眠いわ」

「このまま寝ようか」

「うん」

ソファに座った状態で、マキがセイジの胸に寄りかかっている姿勢で、2人は眠り始めた。

「おやすみなさい・・・」


----明日起きたら、2人で募金に行こうね。

----久しぶりに朝市も見たいわ。

----朝市でクロワッサンが売ってたら買っておきたいね。


そして同様に、他の住人も、同様の事が起きていた。


----やだわ、私は夜型なのに、この時間に眠いなんて・・・

----筋トレは、ここまでにしようかな。眠いよ。

----眠いわ。ケンカした相手住人と話をするのは明日にしようかなあ。

----・・・・・・。


強烈な眠気が住人を襲った。

無理して起きている事はない、と住人全員は考え、

ある者は布団に、ある者は部屋の床の上にそのまま、ある者は椅子やソファに座ったままの状態で、眠り始めた。

明日が朝市の担当の者が、

「明日は朝市だったわね。商品はコーヒーだったな。ブルースカイ島で採れた新鮮な豆を挽いたコーヒーの・・・」

と、つぶやきながら布団を敷き、眠りはじめた。


しばらくして、けたたましいサイレンのような音が島じゅうに響き渡った。

深い眠りについた住人には、このサイレンのような音は、まったく聞こえなかった。

このサイレンのような音は、島が消える予告合図である。

やがて住人と、この島が、まるでフェードアウトするように、ゆっくりと消え始めた。

消える前に住人たちが強制的に眠りについてしまうというのは、おそらく自分が消えるショックを与えないようにするためだろう。



やがて何事もなかったかのように、ブルースカイ島は消えてしまった。

しかしこれが「終わり」というわけではない。

新たな「始まり」なのである。

『島主』は、この場所に、新たに島を作った。


新たに作った島の名前は、前と同じ「ブルースカイ島」だった。


<おわり>


小説のページINDEXに戻る

トップページに戻る


とってもRuiな部屋♪
https://ruiroom.halfmoon.jp/