「おい何してる!」
剣士のデレックが大声を上げた。
しかし声を投げつけられた側は、逃げようとはしなかった。
それどころかデレックの荷物から剣を持ち出そうとしたのだ。
「待て、こいつ!」
剣を持ち去ろうとした者の腕を、デレックは掴んだ----
「誰か来てくれ! 泥棒だ!」
自分の声と共に、デレックは目を覚ました。
「・・・夢か・・・?」
寝起きなので、まだ頭がはっきりしない。 そして辺りを見回す。
薄暗い部屋の中。 そして部屋は、自分が寝ているベッドと、物を仕舞うためのタンスと、簡単な机といった、シンプルな内装である。
そう。 ここはスマブラ選手寮のデレックの部屋だ。
デレックは、「ああ・・・」と言うと、両手で顔を覆った。
「また、あの時の夢を見ちまったんだな・・・」
彼は少々疲れた様子だった。 悪い夢で目覚めたからという事もあるのだが。
競争率の高い選考戦を勝ち抜き、見事スマブラの選手となったデレックだが、
選考戦で敗戦になった者や、書類選考で落ちた者による妨害や嫌がらせが度々あるのだ。
その時の夢を見てしまい、深夜に目覚めてしまう事もあった。
スマブラバトルイベント開会式まで、あと数日あり、直前の日には出場選手のお披露目会もある。
もちろんデレックも選手なので、お披露目会に参加する。
デレックは、自分の国からスマブラバトルイベントが行われるこの地へ向かう最中に起きた事を、そのまま夢に見たのだ。
出国手続きの最中に、愛用の剣を盗まれそうになったのだ。
犯人はもちろん、スマブラバトルイベント一般参加募集の書類選考で落ちた者であった。
武器や道具を盗まれたのはデレックだけではなく、他にもいた。
ほとんどの場合、盗った者をその場で捕まえたりしていたのだが、中には気づいた時には既に犯人はいなかった、というケースもあった。
その場合は急きょ新たに武器や道具を買ったりした者もいたが、やはり大きな戦いの場に使い慣れていない物を使いたくないというのが本音で、
そのために選考戦に行かなかったという者もいた。
窓から外を見ると、まだ空は暗かった。
「もういちど寝るか・・・」
デレックはそうつぶやき、ベッドに戻った。
翌朝。
・・・ではなく、数時間後。
結局眠れないまま、デレックは朝を迎えた。
「そろそろ起きるか・・・」
そう言って彼は目覚まし時計のアラームをOFFにした。 セットした時間は少し先だったのだ。
なんだかだるい。 もちろん身体だけではなく気分もだが。
窓から空を見つつ、デレックはこう思った。
----- タツヤもシュリも、同じなんだよな。 俺だけじゃない。 -----
「ちょっと買い物に行ってくる」
廊下で、デレックはシュリに言った。
「いってらっしゃい。 気を付けてね」
シュリが言った。 もちろん、これには従来の、車に気を付けてという意味だけではないというのは、お互いわかっている。
スマブラバトルイベント会場のあるこの地では、バトルイベントはまだ開催されていないので観客は来ていないが、
お店や一部の設備はプレオープンと言う形で既に開店及び開業している。 これは住込みで働いている従業員のために早めに開けているのだ。
そして観光客も少しではあるが来ている。 プレオープンのお店や設備が目的なのだ。
しかし来るのは純粋な観光客や見物客だけではなく----
「ちょっと待ちな」
突然デレックの前に立ちはだかるように、人が現れた。
「何でしょうか?」
「お前がスマブラ一般参加の剣士のデレックだな」
「そうですけど・・・」
あくまでデレックは丁寧に応じた。
「そうか、お前がデレックか・・・」
現れた者は木刀を手にし、いきなりデレックに襲いかかった。
とっさに避けるデレックだったが、相手はたたみかけるように、木刀で攻撃をし続けた。
木刀が空を切る音がする。
しかしデレックは、この者は、単に自分を攻撃しているわけではないという事に、すぐ気付いた。
狙っているのは、右腕だった。
デレックは右利きである。 剣を持つ手も右手だ。
この手を狙うという事は----剣士としての生命も狙っているという事でもある。
「おい、何のつもりだ!」
「何のつもりだ、だって? 見てわかるだろ?」
言葉では相手にならないようだ。
「・・・仕方ないな」
デレックはそうつぶやき、身構えた。
「なんだ? 俺とやる気になったのか?」
挑発的に相手側はそういったのだが---
デレックは、とうっ!と声を上げ、片足を上げた。
狙っているのは相手の体そのものではない。 木刀を持ってる手の甲だった。
バシッ!と激しい音がした。
「いてぇ!」という声とともに、相手側は、木刀を取り落した。
まさかデレック側も手を狙ってくる(正確には違うが)とは思わなかったのだろう。
さらにデレックは素早くかがんだ。
「あ! 木刀を取る気か!」
相手側は大声で言った。
しかしデレックは直後に大きく上向けにジャンプをし、何か新たに攻撃するように見せかけ----この場から走り去っていった。
不意打ちに見せかけて相手側が驚いてる隙に走り去ったのだ。
余計な戦いはしたくないというのがデレックの本音だ。
また、持ってる武器を取り落させるのは、戦意喪失させる意味もある。攻撃が武器に依存している者には効果的だ。
デレックは剣士だが、剣以外での攻撃や防御が全くできないというわけではない。
これは自分の身を守るための事である。
また、剣での戦いで、相手の剣を弾き飛ばすという攻撃方法もあるのだ(この場合剣を弾き飛ばされた方が負けとなる)。
「・・・追って来なかったみたいだな」
結構走ってからデレックがつぶやき、辺りを見回した。
「誰もいないようだな」
やがて彼は、何事もなかったように目的のお店に向かったのだった。
しかし今は周りに誰もいなかったが、先ほどデレックが襲われそうになった時に、少し離れた所から見ていた者がいた。
それはスマブラの一般参加選考戦の時に敗退した者で、デレックへの逆恨みにより、さきほどの者に襲ってくれと頼んでいたのだ。
その者は、苦虫を噛み潰すような表情でデレックを見ていた。 走り去って居なくなってからも、ずっとその場所をにらみつけていた----