「キッチン借りますね」
シュリが言った。
場所はスマブラ選手がバトルイベント期間中に寝泊まりする選手寮。
現在は、バトルイベントがまだ開催されていないという事もあり、一般参加のMiiファイターと寮の係員しかいない。
そしてシュリは、ガンナーとしての一般参加Miiファイターなのである。
「あら。 お腹すいたの? 何か今から作りましょうか?」
選手寮のまかない婦が言った。
「いいわ。 フライパンがあれば何でも作れるから」
「そうか。 あなたMiiだったわね。 フライパンで何ができるのか、私も見てみたいわ」
Miiは、かなり柔軟な種族なのである。
フライパンひとつでいろんな料理が作る事ができる。
普通に焼きそばやホットケーキを作るのはもちろんの事、なぜかソフトクリームや緑茶なども作り出す事ができるのだ。
但し、何が出来るのかは、出来上がるまで料理している本人もわからないので、
決してフライパンで緑茶などの予想外の物を作り出そうと考えてるわけではないのだ。
なので、ジュージューと美味しそうな炒め物を作る音を立てていても、出来上がったのはソフトクリームやチョコレートだった、という事も珍しくない。
キッチンでジュージューと美味しそうな音がする。 フライパン片手にシュリが料理をしているのだ。
「甘さ控えめがよさそうね」なんてつぶやきながら・・・
しばらくして、シュリは出来上がった料理を持ってテーブルに座った。
「何が出来たのかしら?」と、まかない婦が見に来た。
シュリはまかない婦に出来立ての料理を見せた。
「甘さ控えめの、お寿司です」
「お寿司・・・フライパンで・・・」
まかない婦が驚いていたが、シュリは気にせずフライパンで作った寿司を食べていた。
シュリは、スマブラバトルイベントが行われるこの地の地図を広げた。
この地はどうぶつの森やトモダチコレクション、ウーフーアイランドなど、いろんな世界を再現した場所があり、
地図には、何の世界を再現した場所がどこにあるかが示されている。
シュリが今広げている地図は、観客や観光客用と違い、この地で働く従業員用の物で、従業員用の施設や設備の案内も書かれている物だ。
そんな様子のシュリを見て「どっか出かけるの?」と聞いて来た者がいた。
同じMiiファイターのタツヤである。
「うん。 いい天気だし、練習も兼ねて公園に行って見ようかと思うの」
「公園?」
「ほら、ここの・・・」
「ああ、トモダチコレクションの世界を再現した場所に行くんだね」
「あの公園は、四季の移り変わりが綺麗の現れるので好きなの。 といっても、話で聞いたり画像でしか見たことないけどね」
「オレも話で聞いたり画像でしか見たことないなあ」
「今から行ってくる」
「今から? 巡回バスで行くの?」
今回、スマブラバトルイベントが行われるこの地は、かなり広く、観客や観光客向けの巡回バスが運行している。
もちろん従業員も移動や休みの日に使う事もでき、その際は従業員割引が効いたりもする。
シュリの場合バトルイベントの出場選手という事もあり、無料で利用ができる。
レギュラー選手も巡回バスの利用が出来るものの、人気者という事もありバスに乗ると混乱が起きる事が予測されるので、
利用は避けた方がいいとマスターハンドからのお達しがあった。
レギュラー選手が移動の際は、専用の選手用地下通路を使用するのだ。
地下通路はスマブラ選手以外は完全に秘密の事項なのである。
もちろんMiiファイターたちも地下通路の説明は受けているが、使う事はないだろう。
「巡回バスは使わないわ。 歩いていくの」
「ここからトモダチコレクションを模した場所まで結構あるけど。・・・やはり特訓とはいかなくても、動いて鍛えるため?」
「鍛えるのが目的じゃないわ。ウォーキングが好きなの」
「そうなんだ。気を付けていってらっしゃい」
「うん。 行ってきます」
結構距離のある場所へ歩いて行くという事もあり、シュリは軽い服装に小型リュックを背負うという格好で出かけて行った。
リュックには、女性が鞄に入れて持ち歩く定番の物以外は、地図や身分証明書ぐらいしか入っていない。
身分証明書は、スマブラの一般参加選手のMiiファイターだという証明書で、お店や施設利用で従業員割引を受ける時にも必要なのである。
シュリがウォーキングが好きなのは、乗り物移動だと見つけられない物があるからだ。
季節の変わり目のわずかな発見や、アスファルトやセメントの地面の隙間から顔を覗かせている小さな雑草の花を見つけたりするのが好きなのだ。
しかしこのスマブラバトルイベント開催地は最近造られた土地なので、そういった雑草は見つかる事はないのだが。
「ねえ、あの人、スマブラの一般参加Miiじゃない?」
どこかから、そんな声がした。
言うまでもなく、一般参加Miiとは、シュリとデレックとタツヤの3人しかいない上に、今はデレックとタツヤはここにはいないので、
シュリの事を言っているのである。
もちろん、呼ばれたわけではないので、シュリは聞こえてないふりをしつつも耳を傾けていた。
「ほら・・・あのMiiの女性」
「あ、あのMii?」
「そうそう」
「ジャンルが何だっけ・・・。 ほら、手にハンドキャノンを着けてて撃って攻撃するの」
「うん、撃って攻撃するタイプの一般参加Miiが女性だって聞いたけど・・・」
そんな話を聞き、シュリは苦笑いした。
----ガンナーって名称は、あまりメジャーじゃないものねえ・・・
「いらっしゃいませ」
黒子をかぶった店員が言った。
シュリが今いるのは、トモダチコレクションを再現した土地にある食べ物屋である。
トモダチコレクションの食べ物屋は、種類豊富な食料品や飲み物やデザートを販売しているのだが、
ここはそれを再現しているだけなので、品揃えは実際の販売品の一部だけだ。
シュリはコーヒーを買おうとしたら・・・・
「あ。 あなたスマブラの一般参加Miiじゃないですか?」と店員が言った。
「はい。 シュリと言います」
「やっぱり、ガンナーの人ですね」
店員がそう言った直後、小声でこう言った。
「買い物や施設を利用する時は、身分証明書を提示してくださいね。 従業員割引が受けらないですよ」
「ああ、そうでしたね」
「レギュラー選手も防犯上の意味で、顔パスにしないで身分証明書の提示をしてもらうようにと、マスターハンドからのお達しがあります」
「あら、そうなんですか」
シュリはリュックから身分証明書を取り出して提示した。
店員は身分証明書の画面を小型機械に読み込ませた。
「はい、ありがとうございます」
コーヒーを買うといっても、コーヒーカップに注がれた形ではなく、よくある蓋付きの紙コップに入ってるタイプの物だった。
さすがにコーヒーカップに入った形だと持ち歩きに大変だろう。 この店にはフードコートがないのだ。
また、ここのトモダチコレクションを再現した土地には喫茶店もあり、ゆっくり飲みたい場合はそちらに行ってください、という意味もあった。
「緑が濃くて、いい時期ねえ」
コーヒーをすすりながらシュリが言った。
彼女は今、公園のベンチに座っている。
「天気もいいし、この場所は気分転換にいいかもね。なんだか木や花から癒しを受けてるような、そんな気分になるわ」
この公園は、木や花植わっていて、芝生があったり、ベンチや街路灯が設置している以外は、特に何もないので、あまり人は来ないようだ。
元となっている実際のトモダチコレクションの世界とは違い、特定のイベント(この場合出来事)に使われるようなことがないからだ。
「あら。 スマブラバトル開催地の土地とはいえ、やはり公園ね」
シュリがつぶやいた。
公園に、小さな子供を連れた人が入って来たのだ。親子で散歩のようだ。
「かわいいわねえ・・・」
シュリは別に子供好きというわけではないものの、やはり小さな子供を見ると和むようだ。
小さな子供を連れた人、つまり母親らしき人は、シュリが座ってるものとは別のベンチに座った。 一方小さな子供はベンチに座っていない。
よくある、小さな子供を遊ばせつつも傍らで座って見守ってる形にしているようだ。
小さな子供は、ベンチから離れて歩き始めた。歩くとはいっても、不規則な向きを向いている。
見ていると危なっかしい感じだが、だからと言って、その子供のためにも、すぐに手出しをするわけにもいかない。
「小さい子供って、その加減が難しいのよねえ・・・」
「よお、シュリ!」
いきなり目の前に、人が現れたのでシュリは驚いた。
いや、単に小さい子供に気を取られているだけかもしれない。
驚きながらも、シュリは顔をあげた。
「なんだよ、そんなに驚かなくてもいいじゃないか」
目の前に現れた者は、見覚えがある男性Miiだった。
「あら、あなたは・・・」
「そそ。オレはスマブラの一般参加の選考戦で一緒になったハロルドなんだけど・・・覚えてるかな」
「ハロルド。覚えてるわよ。準決勝で一戦を交えた人・・・よね」
シュリは戸惑いながら、そう答えた。 まさか選考戦で一緒になった人と、会うとは思っていなかったのだ。
現れた男性Miiのハロルドは、シュリと同じガンナーなのである。
「そそ。 覚えてくれてたんだなあ。 『誰?』とか言われたらどうしようと思ったけどな」
なんだか軽い感じだ。
しかしシュリは、妙な部分に気が付いた。
ハロルドは、右手にハンドキャノンを着けているのだ。
「・・・ハンドキャノン着けてるけど、どうしたの?」
シュリが聞くと、ハロルドは、こう言った。
「実はシュリと、もう1度戦ってみたくてね」
「戦う?・・・のは構わないけど・・・」
シュリは戸惑いつつも、そう答えた。
というのも、既にスマブラ一般参加のガンナー選手は、既にシュリに決定しており、仮にシュリに勝ったとしても、なにも得するような要素はないのだ。
とはいえ、シュリ側からしたら、申し込まれた戦いを断る理由がない。
----しかし。
今日はウォーキングも兼ねて、この場所に来ただけなので、ハンドキャノンは持ってきてないのだ。
「今日はハンドキャノンは選手寮に置いて来たの。 戦いは、後日改めてお願いできないかしら?」
まさか今から取りに行って来いなんて言わないと思ったのだが----
「そうか・・・」
そう言うとハロルドは、ハンドキャノンを空に向け発砲した。
ドーン!と激しい音がする。その音に反応して、公園内にいた野鳥は一斉に飛び去っていった。
「!?」
シュリは驚いた。 というのも、通常のハンドキャノンよりも、かなり威力が強かったからだ。
「ちょっと待って! 今の何!?」
「今の何、って、ハンドキャノンを発砲したんだけど」
「そうじゃなくて!今の発砲、かなり強力じゃないの!」
「なんだよ」
「そのハンドキャノン・・・改造じゃない?」
「おやおや。 別に試合じゃなければ、どんなハンドキャノンを使えば問題ないんじゃないか?
オレは確かにシュリに戦いを申し込んだけど、これは別に試合じゃないんだぜ?」
「そういう意味じゃないわよ!」
「それじゃあ、どういう意味だよ?」
そう言ってハロルドは、シュリの胸部に銃口を向けた。
通常のハンドキャノン自体には殺傷能力はないものの、改造により威力を増大させたこのハンドキャノンの場合は、どうなるかはわからない。
シュリはハロルドを睨みつけた。 そもそもハンドキャノンはもちろんの事、飛び道具の先端を胸部に向けるという事自体、尋常じゃないという事だ。
突然ハロルドは、銃口をシュリに向けるのをやめた。そして、空に向けて撃ち始めた。それも数発どころではない。
また、空を撃つのも、角度を変えたりしていて、どちらかというと、乱発しているような感じだ。
「あ!」
シュリは、ある方向に向いた。 その場所は、先ほどの小さい子供がいる場所で----
そこには、大きな音に戸惑いながらも、ウロウロし続ける、小さい子供の姿があった。
「や・・・やめてよ!この公園は、小さい子供がいるのよ!」
「へえ。小さい子供がいるのが気になるのかい?」
「当たり前でしょ!」
ハロルドは、一旦ニヤリと笑うと、今度は銃口をウロウロし続ける小さい子供に向け始めた。
「やめてよ! あの子供は関係ないじゃない!」
シュリが慌てる。 しかしはハロルドは、そんなシュリの様子を楽しんでるかのようだった。
シュリは2歩ほど下がり、少し横に動いた。 動いた先の場所は、ちょうど銃口の前だ。
「ほう・・・そう来たか・・・。もちろん、どうなるかは、わかってるんだろな?」
「・・・もちろん、わかってるわ」
直後、ドーンと音がした。
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「おい!」
「おい! シュリ!」
自分を呼ぶ声がする。どこからだろう。
「シュリ!」
気が付くと、シュリは公園の地面に横たわっていた。
そして自分の名前を呼んでいたのは、彼女と同じくMiiファイターのデレックとタツヤだった。
「気が付いたみたいだな」
「よかった・・・」
しかしシュリは気を失っていたという事もあり、頭がはっきりしない。
「私・・・倒れてたの・・・?」
シュリのその言葉に対し、タツヤが説明を始めた。
「いや実は、トモダチコレクションの公園で女性のMiiが倒れているって聞いてさ。
今日シュリが公園に行くって言ってたんで、まさかと思ってたけど・・・」
「まさかとは思ってたけどな。 まさかそうだったとは」
「来てくれたんだ・・・。ありがとう・・・」
「いや、その前にさ。何があったんだ?」
デレックが言ったが、すぐにこう聞いたのだった。
「襲撃に遭ったのか?」
その問いに、シュリは無言で首を縦に振った。
「そうか・・・」
その後、シュリはこう聞いた。
「そうだ。 さっきの小さい子供は・・・。 無事だったの?」
「小さい子供? この辺りにはいないぞ。 それに、その小さい子供もここで何かあったら、多分、女性Miiが倒れてる件と一緒に話が来てるはずだけど、
それらしき話がないから無事なんじゃないかな」
「そうなんだ・・・。 それならいいの・・・」
先ほどの小さな子供が、何事もなかったようで、安心したシュリだった。
シュリに試合を申し込もうとしたものの、途中でシュリを挑発する形になったハロルドだったが、
実は彼は最初からシュリに試合を申し込むつもりはなかった。
それもそうだろう。 選手寮近くやバトルイベント参加日ならともかく、選手寮から離れた場所にある公園で試合を申し込んでも、
ハンドキャノンを置いて来たと言って断られるのが予想できる。
もちろんシュリがハンドキャノンを常に肌身離さず持っているタイプなら、 話は別だが。
今回ハロルドは、選考戦で勝ち抜けて見事スマブラの選手になったシュリへの嫌がらせに来ていたのだ。
そして、公園にいた、小さな子供を連れた母親らしき者は-----
実はハロルドとはグルであった。
そもそも子供を連れてきている場所に、飛び道具をぶっ放している人がいれば、普通なら、危険なので子供の手を引いてその場を離れるだろう。
しかしその場所を離れなかったのだ。
シュリに限らず、小さな子供が居合わせた状態で飛び道具をぶっ放してる者がいれば、その子供を気にするのも当然なのだが、
そういうのもハロルドとグルの者は計算してあったのだ。
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