設備設置や建設などで重機の音が行き交う中、たくさんの者が、この地にやってきた。
大きなボストンバッグを持った者、スーツケースを引いてる者、大きなリュックを背負ってる者など、大荷物を持った者が多かった。
そして、それらの者は、大きな建物の中に吸い込まれるように、次々と入っていった。
「はい、書類合格のお知らせの証明を見せてください。」
中にいる係員が大きな声で言った。 大きな声で言ったのは、単に人がたくさんいるので、声を大きくしないと聞こえないためである。
そう。ここに来た大勢の者とは、スマブラバトルの一般参加希望者で書類合格したMii達だ。
彼らが持っている大きな荷物の中には、剣や銃などの武器が入っている。
マスターハンドとクレイジーハンドはこの場所には居なかった。別の場所でモニターで様子を見ているのだ。
この大きな建物内で、スマブラ一般参加Miiの選考戦が行われる。
剣士・格闘・ガンナーから各1人、優勝した者がスマブラの参加権を得る事になる。
戦闘の種類別に各自別れ、そのままトーナメント式で選考戦が始まるかと思いきや・・・
目の前に、大きなゲートが立ててある。 このゲートを通って選考戦会場に入るのだ。
ゲート横にいる係員が、
「選考戦会場に入る前に、このゲートを通ってください」
と言って、会場に来たMii達を誘導しはじめた。
このゲートは、服の中などに規定以外の武器や不審物を隠してないかをチェックするための物であった。
さすがに、競争率の高いバトルイベント選手の選考会とはいえ、不正をするような者はいないだろうと、ほとんどの者は考えていた。
しかし、実はこういう物に限って、予想もしない、とんでもない不正を働く者がいるのである。
剣士の女性Miiがゲートを通った直後、係員は彼女を呼び止めた。
「ちょっとそこの剣士の方」
「はい」
「あなたの剣を見せてください」
女性剣士はすぐに自分の剣を差し出した。 係員が剣を鞘(さや)から抜き出すと、剣の刃の部分をじっと見つめた。
「剣の刃に、何か塗ってますね? しかもこれ、刃の手入れ剤によるものでもないですね」
「そうだけど・・・。 それが何か? 何塗ってるかわかったの?」
どちらかと言うと女性剣士は、やや不満げな様子だった。
「劇薬を塗ってますね。 通常より大きなダメージを与える事ができます。 しかしこれは認めません」
係員のその説明に、女性剣士は、「そんなの募集事項や書類の説明に書いてないじゃない!」と食って掛かった。
「バトルイベントじゃなくても、通常の剣技大会でもこういったのは不正です。 よってあなたは失格です」
「なんでよ!」
なおも食って掛かる女性剣士だったが、別の係員によって強制退場となってしまった。
「やれやれ・・・」
係員がため息をついた。しかし、一息いれる間はない。 選考戦に出場するMiiはたくさんいるのだ。
「あ。」
少々驚いた様子で係員が声を上げた。 そしてゲートを通った格闘の男性Miiを呼び止めた。
「ちょっとそこの格闘の方」
格闘男性は立ち止まり、「はい」と答えた。
「手にしているグローブを見せてください」
ここで言うグローブとは、手を保護するための格闘用の厚手の手袋だ。
しかし格闘男性はグローブを見せるのを渋った。
見せるのを渋った時点で既に怪しいのだが・・・
「では見せなくて結構ですので」
と、係員はそう言うと、強引に手の甲を握り始めた。
格闘用のグローブは、手を保護するための物で、通常なら薄手のクッション材以外は何も入っていないはずだ。
しかし、握った手の甲は、クッション材以外の手応えがあった。
「グローブに何か仕込んでますね。これで拳で攻撃をしたら通常より大きなダメージが与えられる。」
「よくわかったな」
格闘男性は、あっさりと認めた。
そして、「わかった。 他のグローブをはめるよ」と言って、鞄を開け始めた。
「見つからなかったら、さっきのグローブのまま選考戦に出るところだったでしょう?」
「・・・まあそうだったけどな」
「不正行為で失格といたします」
「おい! 他のグローブに変えるって言ってるだろ!」
格闘男性は係員に食って掛かった。
しかし彼も、先ほどの女性剣士と同様に、他の係員により強制退場となってしまった。
やがてほとんどの選考戦参加者Miiがゲートを通った頃には、
「もったいないなあ。 実力で負けて敗退するのならともかく、こんな所で失格だなんて・・・」
と、係員はため息をついていた。
不正が見つかったのは、数人だった。 選考戦参加者Miiの人数が多いので、『ほんの数人』かもしれないが。
選考戦の前に、係員による説明が行われた。
とはいっても、簡単な物だ。
選考戦はトーナメント式。 対戦の組み合わせは機械を使ったランダムな物だ。
なお、組み合わせに性別は無関係である。
制限時間は2分。 勝敗が決まらなければ判定に持ち越される。
「・・・以上です」
と、係員が言った。
意外とシンプルすぎないか?という声が上がった。
もちろん、それも予測してある。
あえてシンプルにしてあるのだ。
「では、選考戦を開始します・・・」
係員が言うと、辺りは緊張に包まれた-----
場所は変わって、マスターハンドとクレイジーハンドがいる部屋。
選考戦会場ではなく、事務所の大き目の部屋にモニターを数台置いて見ていた。
「選考戦には細かいルールは設定しない。 むしろ、あまりゴチャゴチャとルールや規定を設定すると、参加者も係員も混乱する。
それにより、余計なもめごとが起きたりするからな」
「そうそう。 それに、剣士も格闘もガンナーも、大きな戦いの場に出ようとする以上は、各自やってはいけない事は既にわかってるはずだから、
あらためてルールや規定を設定する必要はない」
ゲートで規定以外の武器や不審物所持のチェックはあったが、本来ならあんな物は設置する必要はないのだ。
マスターハンドもクレイジーハンドも、落ち着いた様子でモニターを見ていた。
「さあ・・・。 長くなりそうで長くないバトルの始まりだな」
選考戦に来た一般参加希望Miiの人数が多いので、選考戦は長くなりそうだ。
しかし、意外と長くない時間でトーナメントは進んで行ったのだ。
制限時間が2分といった短時間が理由なのではない。
スマブラのような大きなバトルイベントへの参加希望といえば、やはりバトルに長けてる者が来る、というイメージがありそうだ。
実際、選考戦には見事な剣さばきの者、うなるような拳を撃つ者、意外性のある攻撃をするガンナーなどがたくさん来ている。
しかしその反面、自分の実力を高く見積もり過ぎていたり、単にスマブラに参加したいだけでバトルはほとんど未経験の者も少なくはなかった。
トーナメント戦は機械を使ったランダムな組み合わせである。 なので戦いに長けている者と、まるっきりそうじゃない者が組み合わさったというのも珍しくなく、
ほんの数秒で勝敗が付いた戦いもあった。
ほとんどバトル未経験の者がいる、という事は、戦いでやってはいけない事を知らない者もいたりする。
しばらくして、格闘タイプの選考戦会場が、異様な雰囲気になった。
男性の参加者が床の上で横たわっていた。 かなり青ざめている。
「担架で運んだほうがいい?」
係員に聞かれ、
「・・・いや、隅でちょっと横になってます」
と言って、青い顔のまま立ち上がり、会場の隅の方に歩いていった。
その横に、得意げな顔をした別の参加者がいた。さきほどの男性参加者と戦っていた者だ。
「この勝負、勝ちだよね♪」
しかし係員が遮るように大声で言った。
「反則負けです!」
先ほどの男性参加者に、係員が「災難でしたね」と言った。
「まさかとは思ってましたけど・・・。 そのまさかが本当に起きたとは・・・」
まだ青い顔のまま、男性参加者は言った。
「ですよね」と、係員が苦笑いする。
「ほんと、災難だったなあ。 ・・・いきなり金的されるとは」
言うまでもなく金的は反則である。
<追記>
金的とは、男性の大事な場所を攻撃する事です。リアルでも格闘などでは反則です。