ワーーーーー!
大きな歓声が辺りを包んだ。
ここはマリオカートのレース場。
しかしレース参加者は、まだレース場にいなかった。
ピットで準備作業中なのだ。
レース参加者は、いわゆるマリオファミリーのメンバーだけではない。
数年前より、Miiという種族の一般参加者もいたりするのだ。
ピットでガシャガシャと音をたて、カートの調整をする者がいた。
「やはり、Bダッシュがいいわね」
そんな事をつぶやきながら、カートの調整をする。
この者の名前はパティ。 一般参加者Miiなのである。
やがてカートの調整が終わると、パティは運転席に飛び乗った。
エンジン音がすると共に、ピットのシャッターが、ゆっくりと開きはじめた・・・
ピットの向こうはレース会場ではない。
レース会場に行くためには、いくつか作業をしなければならないのだ。
まずは参加者の名前の確認である。
現在のマリオカートのレースは一般参加者もいるため、確認が必要なのだ。
「はい、あなたが一般参加者Miiですね。 お名前は? 」
ジュゲムが来て確認作業をし始めた。
「パティです」
「はい、パティさんですね」
そして参加証明書等による確認が終了すると、ジュゲムは他の参加者の確認作業に取り掛かった。
これは参加者の名前確認だけでなく、不正しそうな参加者をチェックするのも兼ねている。
(ここで言う不正とはチートや必要外の妨害行為を指します)
参加者チェックが終わると、次はレースをする場所を決めるためのコース投票に入る。
しかし、ほとんどの人の投票が「おまかせ」だったりするため、ほとんどはコースはランダムで選ばれる事が多いのだ。
まあ投票しても、そのコースになるとは限らないし、それに『弘法筆を選ばず』で、本当に上手ならどのコースになっても問題はない、という事もあるからだろう。
もちろん、自分の得意コースを投票する、という者もいる。
----私はウーフーアイランド2で走りたい。
パティはそう思っていた。
しかし彼女は、とりたててそのコースが上手だというわけではなかった。
上手ではないが、短いタイムを叩き出す事は、できるのだ。
やがてレース前のコース投票となった。
今回のレース参加者は最大の8人。
半分以上は「おまかせ」投票で『 ? 』表示になっている。
あとは好きなコースや得意コースを投票していた。
もちろんパティはウーフーアイランド2を投票している。
全員投票が終わったところでコース決定のルーレットが始まった。
お互いみんな、自分が投票したコースが選ばれるとは思っていない。
選ばれたらラッキー、程度のものなのだ。
もちろん、全員同じコースを投票していれば、確実にそのコースになるので話は別だが・・・。
やがてコース決定ルーレットは、おまかせ投票の『 ? 』の所で止まった。
そして『 ? 』の表示にコース名が表示された。
「やった! 」と、パティは喜んだ。 というのも、表示されたコース名はウーフーアイランド2だったからだ。
喜んでいるパティの様子を、別の一般参加者Miiの者がじっと見ていた。
---あいつ、「あれ」をする気だな・・・!
場所は変わり、レースの参加者は皆、ウーフーアイランド2のコースのスタート地点で待機していた。
3、2、1、GO!
ジュゲムのカウントダウンの終了と同時に、参加者は一斉に走り始めた。
コースに障害物として止めてある車を飛び越え、分岐点を通り、1つ目の通過ポイントへ向かっていく。
通過ポイントの横には滝のある崖がある。
この滝は『絶叫の滝』という、ウーフーアイランドの癒しの場所でもあった。
ここは滝特有のマイナスイオンを発生し、気温が2度ほど周辺より低いという特徴がある。
その『絶叫の滝』に近づくと、パティが乗ってるカートは、急に減速しはじめた。
そして、少しずつ後ろに下がっていく。
「あ! あの人、『あれ』をする気ね!」
パティの真後ろを走っていたデイジーが言った。
「もちろん妨害するわよ・・・! 」
そう言ってデイジーは、赤甲羅をパティに投げ始めた。
ビービービービービー!
赤甲羅特有のブザー音が、パティを背後から襲った。 これはかなり大きな音を立てるのだ。
「・・・来たわね! 」
パティは緑甲羅をカートの後部に装着した。
「ちょうどよかったわ。 さっきのアイテムボックスから緑甲羅が出たのよ! 」
ビシャッ!と音をたて、デイジーが投げた赤甲羅は緑甲羅に当たって砕け散ってしまった。
デイジーが「ああ・・・」と声をあげた。 しかしパティに構っていられない。 彼女はそのままレースを続け、『絶叫の滝』前を通過した。
その様子を尻目に、パティはそのままカートの速度を上げ、『絶叫の滝』に飛び込んだのだった。
-----『絶叫の滝』とは。
先ほどの説明の通り、ウーフーアイランドの癒しの場所である。
ここのレースコース「ウーフーアイランド2」は、南の島ウーフーアイランドを模したコースなのである。
このコースには大きな設計ミスがあった。
1つめの通過ポイント前にある、『絶叫の滝』に勢いよく飛び込むと、転落した参加者を釣り上げる係のジュゲムが勘違いして、
2つ目の通過ポイント前の『レイクピア・キャッスル』横へ移動させてしまうのだ。
これにより、かなり大幅な時間短縮ができるのだ。
それを使ったショートカットを使う者が後を絶たない。
パティも、そのショートカットを使うべく、『絶叫の滝』へ飛び込んだのだ。
もちろん、ジュゲムに『レイクピア・キャッスル』横へ移動してもらうために-----
直後カートは、勢いよく滝壺に落ちた。
落ちた音は、流れる滝の轟音により、かき消された。
すぐにジュゲムが引き上げてくれるはず。
さあ、早く来なさい!
パティは水の中で、ジュゲムに引き上げられるのを待っていた。
計算通りなら、すぐにジュゲムに引き上げられ、レイクピア・キャッスル横に運ばれるはずなのである。
----ところが。
なかなかジュゲムが来ない。
もちろん、このショートカットの利用者は複数いる事は毎度の事であった。
しかし、それによってジュゲムの釣り上げが遅くなるという事はなかったのだったが----
「何してるのよジュゲム! さっさと引き揚げなさいよ! レース参加者が転落したのよ! 」
パティは泳げないという訳ではない。
ジュゲムは転落したレース参加者を引き上げる時は、カートごと引き上げるので、参加者は運転席に乗ったままの状態じゃないと意味ないのだ。
なのでパティは、運転席に乗ったまま---水中にゆっくり沈んで行ったのだった。
さすがに異常を感じたパティは、ジュゲムに釣り上げてもらうのを待つのをやめ、自力で脱出し始めた。
しかし着ている服装は、首から下全身を完全に覆うレーサースーツである。
服を着ている状態で水中に転落した場合は、服が足手まといになり、脱出は難しくなる。
ましてやレーサースーツが首から下をスッポリと覆っている状態なので、それが困難な状態にさせている。
パティは水上に浮けないまま、水中へ沈んでいった----