ドドドドドドド・・・!
激しい滝の音がした。
パティが今いる場所は、絶叫の滝の前である。
ここはウーフーアイランドの名所の1つで、滝特有のマイナスイオンの発生があり、周辺の気温が2度ほど低いという特徴がある。
昨日は、マリオカートのウーフーアイランドを模したコースの絶叫の滝から飛び込んだら、こちらの世界にワープしていた。
という事は、今目の前にある絶叫の滝に飛び込めば、もとの世界に戻れるって事かしら----
パティは滝の方向に向かって前進した。
滝の前には当然、転落防止のために柵が設置してある。
その柵を乗り越えるべく、柵の向こう側へ片足を置いた瞬間、突然背後から腕を掴まれた。
驚いてパティは振り向いた。腕を掴んだのは見知らぬ人だった。
それ以前に、ここの土地ではサンディ以外の知り合いがいないので、相手は知らない人で当たり前なのだが。
「お嬢さん! 何があったか知らないですが、あなたはまだ若いんですから! 」
・・・どうやら身投げと勘違いされたようだ。
無理もない。 普通ならこんな激しい滝に飛び込むなんて事はないのだから。
「・・・あっ・・・ 」
パティは返事に困った。 相手は事情を知らないのだが、かといって説明しても通じるかどうかわからない。
とっさに彼女はこう言ったのだった。
「・・・ちょっと、アクセサリーを落としてしまったので・・・ 」
腕を掴んだ人は、身投げじゃないと安心したものの、「危ないじゃないか!」と大声で言ったのだった。
「なんとか解放されたわ・・・」
パティの腕を掴んだ人から説教され、解放されるまで、かなりの時間がかかった。
確かにどんな種類であれ、柵を越えるという事は、普通ない。
身投げではないという誤解が解けたら、今度は「係員に頼んで、落したアクセサリーを拾ってもらおう! 」という話になってしまい、
なかなか断れなかったのもあったのだ。
しかし改めて見ると、絶叫の滝は、すごい勢いで水が流れている。
パティがレース中に飛び込んだ場所は、あくまで絶叫の滝を模した場所なので、こちらの絶叫の滝ほどの勢いはない。
「それにしても----よく飛び込もうと思ったわね、私・・・ 」
従業員用の地図と、観光客用の地図を交互に見ながら、道を確認するように歩いていくパティ。
暑いながらも、風が吹いてきた。
「ああ・・・気持ちいいわ」
地図を確認すると、この先にはヴィラ・コソコソという名のビーチがあるようだ。
そこで、ちょっと砂浜で足をつけようかと彼女は考えた。
泳ぐ目的はなくても、海はうれしいものだ。
リゾート地という事もあり、すぐに泳いだりマリンスポーツができるような恰好をしている者が、結構行き交っているのを横目に、
「本当は泳ぎたいんだけどね・・・ 」とパティは苦笑いした。
「そこのお嬢さん♪ 」
背後から若い男性の声がした。
パティは今は、シンプルなTシャツにパンツ姿、といった、どう見ても観光客やリゾートを楽しむ者の服装ではなかった。
なので自分の事ではないなと思い、そのまま歩き続けた。
「おいおい。 聞こえてないのかよ」
-----話しかけられた人、早く返事しなさいよ!
パティは少しイライラした。
「話しかけられたのは自分じゃないと思ってるな? そこの赤いシャツに水色パンツに靴の色が黒の人! 」
-----え、私?!
パティは立ち止まった。 そして後ろを見た。
そこには、パティと同じぐらいの年の男性がいた。
「やっとわかったか」
「私、この土地に知り合いが1人しかいないから、呼んだのは私ではないと思ったのよ」
やっぱり、といった感じで男性は、「・・・だろうな」と言ったあと、慌てて「あ! ナンパとかじゃないからな! 」と言ったのだった。
「その服装で、2種類の地図を持って歩いてるって事は、最近来た新人かい? 」
「えっ・・・、そうだけど・・・ 」
「・・・だろうな。 オレもそうだよ。先週ぐらいから」
男性の服装は、今のパティと似ていた。 違うのは色ぐらいで、彼はシャツの色は黄色だった。
「・・・もしかして、私と同類かしら・・・ 」
「たぶんね」
-----他に私と同類がいた!? サンディは自分のようなケースは初めてだって言ってたのに?
「おいおい、なに固まってるんだよ」
「・・・あ、だって、こっちの絶叫の滝に落ちてきたのは私が初めてだって聞いたけど・・・ 」
「絶叫の滝だったの? オレはヴィラ・コソコソで倒れてたって聞いたんだ」
こちらに来た時に最初にいた場所は違うものの、状況は同じという事もあって、パティは思い切って聞いてみた。
自分1人で異世界で住む事になってしまって戸惑ってる時に、タイミングよく同様の状況だと言う者が現れたという事で警戒して確認するという意味もある。
「あなた、レースの時は、どんなマシンに乗ってたの?」
今の時点でレースの話は出ていない。事情を知ってるなら答えられる質問だ。
「ワルビデール、ワイルドレッド、バサバサカイトだ」
なんの躊躇もなく、マシンパーツの名前を相手は答えた。 本当にパティと同じ状況で、悪い事にひっかけようとしている可能性は低そうだ。
「ずいぶん男性らしいゴツイ選択ね」とだけパティが言うと、男性は「なんだよ聞くだけかよ」と言ってきた。
「あ、私は、Bダッシュ、ローラータイヤ、フラワーカイトよ」
「結構堅い選択だな」
「あまりマシンパーツで冒険はしたくないし、手堅くいきたいんでね」
「手堅くいきたい割には、ショートカットで飛び込んだじゃないか? 」
さすがにそう言われてパティは言葉につまった。
「まあオレもそうなんだけどな」
「あなた名前は? 私はパティよ」
「オレはヨシュアだ。 ヴィラ・コソコソで現在住込みで働いてるんだけど--- 」
「私はレイクピア・キャッスルで住込みで働いてるの。 今は、土地を覚えるために、島じゅうを歩いてきなさいって言われてるの」
「オレもだよ。 土地を覚えるために島じゅうを歩いてきなさいって言われてる」
話をしている2人に、声が飛んできた。
「おいヨシュア! 観光客口説いちゃだめだろ! 」
「・・・おっと、オレ仕事に戻るわ」
「そうね。 私も島じゅうを歩く仕事(?)に戻らないと・・・ 」