医務室に静かな空気が流れた。
リョウは巡回に戻ったのだ。
そして医務担当者は現在、書類と報告書と格闘をしていた。
医務室のベッドには、さきほどからずっと、ミサキが眠っている。
コンコン。
「失礼します。 担架返却にきました」
入ってきたのはユウナだった。 担架はヴィラ・コソコソのケガ人の搬送に使っていたものだ。
「ご苦労様。 器具置き場に戻してちょうだいね」
医務担当者がそう言うと、ユウナは「はい」と返事をし、担架置き場へ向かった。
「あ、ユウナ。 ちょっとお願いがあるの。 今手が離せなくてね・・・」
医務担当者が言った。
「はい」
「今医務室のベッド室で寝てる人の様子見てもらえるかしら? 今女性が1人眠ってるの」
「はい」
ユウナはそう言うと、ベッド室に向かった。
「ベッド室の女性・・・」とつぶやきながら。
「あ、この人ね」
ベッドで横たわってる人を見つけると、ユウナはその人を少しじっと見ていた。
しかし直後、「・・・あら・・・?」と言って驚いた。
ベッドで寝ていた人が目を覚ましたのだ。
「あのー・・・ここは・・・?」
目を覚ました女性が言った。 もちろんこの女性とはミサキの事である。
ユウナは驚きながらも「あ・・・医務室です・・・」と答えた。
「医務室・・・」
「どうしたのー?」
医務担当者の声がした。
ベッド室から声がしたので、聞いて来たのだ。
「あ、眠ってた方、目を覚ましました」
ユウナが返事をする。
「了解」と医務担当者が返事をした。 そしてベッドルームに入ってくる。
「大雨の中、倒れていたのを運ばれてきました。覚えてますか?」
「大雨の中・・・。 うろついてたのは、少し覚えてます・・・」
ゆっくりな口調で、女性は答えた。
そして自分の服装を見て、「あ・・・」と言った。自分が着用しているはずの服とは違ったジャージを今来ているので驚いたのだ。
その様子を見た医務担当者は、「着ていた服は、今洗濯してます」と言った。
「あ、すみません・・・」やや小さな声で女性は言った。
「もう少し、その場所にいてもらえないかしら?」と医務室担当者がユウナに言った。
「あ、はい。 いいですよ」
「ごめんねー。 急いで出さなきゃいけない書類があるんで。 もし次の巡回時間が近いなら、隊長に連絡しておくわよ」
「はい・・・。 実は20分後が次の巡回なの・・・」
「わかったわ。 内線電話で隊長に電話しておくわね」
「あら、あなた・・・」
ベッドの女性が起き上がると、ユウナが着ているユニフォームに注目し、
「今年入った新人隊員さんね」と言った。
「はい、今年入った者です」
新人は、最初の1年間だけユニフォームのデザインが少し違うのだ。
「私は、ここから遠く離れたA島で、あなたと同じ、観光客やスポーツ客の安全を守る仕事をしているの。
以前はウーフーアイランドで安全を守る仕事をしていたのよ」
「私の先輩なんですね!」
「まあそんな感じかな。 ・・・今回、雨季に合わせて休みを取ったの」
「雨季に合わせて休みを取る人は多いと聞きます。 A島も、雨季時期は、ここと同じなんですね・・・」
「ウーフーアイランドで会いたい人がいてね、強引に休み取ったの」
「会いたい方には会えたのですか?」
「いや、まだなの・・・」
相手が、昔自分をかばった人だと知らないユウナは、てっきり会いたい相手は恋愛絡みだと思っていた。
一方、自分の目の前にいる若い女性が、かつての迷子だと知らないミサキは、何も知らずに話を続けていたのだった。
「今から15年ほど前の雨季で発生した迷子の時なんだけど・・・」
「はい・・・」
「その時の迷子の応対をしたのが私でね。 その時に天候が荒れて島に落雷があったの」
「・・・」
「その落雷の衝撃で、大木が倒れたのね。 で、私、とっさに迷子を突き飛ばしたの。 木の下敷きになってしまわないように、って-----」
「-----!?」
「あ、もちろん迷子は無事だったのよ! ・・・突き飛ばした事によるケガとかはあるかもしれないけどさ」
「・・・」
「現在の、あなたの上司のリョウって男性がいるじゃない? その人って私と同期入社なのよ」
「同期なんですか・・・」
驚きのあまり、ユウナはそれしか言えなかった。
一方ミサキ側は、相手が当時の迷子だとは知らないまま、話を続けていた。
「その時の迷子が、ここウーフーアイランドで安全を守る仕事で入社してくるとは予想もしなかったわ。 リョウから聞いて驚いたわー」
「・・・」
「ね、あなた。同期入社にユウナって名前の人いるわよね? あ、私、ミサキっていうんだけど」
----ミサキ・・・
その名前を聞き、幼い頃の記憶がよみがえった。
----へえ、ユウナちゃんっていうんだ。私はミサキよ。
雨宿りをしている時に、自分を保護した女性隊員が言った言葉だ。
----おいミサキ! 聞こえるなら応答しろ!
ミサキが大木の下敷きになった時に、リョウからの無線の呼びかけである。
----あ・・・。 あ・・・ミサキ・・・ちゃん・・・
担架で運ばれるミサキを見たときに、自分が言っていた言葉である。
「あ・・・。・・・ああ・・・」
自分をかばって死んだと思った相手が、実は生きていて、しかも自分の目の前にいる!
「・・・ああ・・・」
ユウナは驚きのあまり、言葉にならない声を発していた。
「どうしたの?」
すぐにミサキは聞いたのだが、直後ユウナは その場に崩れるように倒れ始めた。
・・・ドサッ!
「どうしたの!」
音に驚いて、医務担当者が飛んできた。