「どこに行ったのかしら!」
ユウナが驚いて言ったのだが・・・
「まさか・・・。 ハラハラつり橋の辺り?」
「やはり・・・私に探して欲しかったのかも・・・。 行ってきます!」
バタバタとユウナは装備品を身に着け始めた。
「あ! 待って! まだそこにいると決まった訳じゃないし、さっき見かけた時からそんなに経ってないから、まだここの設備内にいるかもしれないわよ!」
「とりあえず、まだそんなに遠くまで行けないって事ですよね・・・」
医務室内でちょっとした騒ぎになっているところへ、「なにかあったの?」と言いながらミサキが戻ってきた。
「あ。 ミサキさん。おかえりなさい・・・って、どこ行ってたんですか」
少し呆然とした様子でユウナが聞いた。
「お手洗い行ってたのよ。 以前みたいに従業員用トイレ行こうとしたら、係員の人に呼び止められちゃってね。 お客さん用のトイレに案内されちゃったの」
ミサキが以前ここで働いていた事を知っている者は現在では少数なのである。
なのでその係員は、ミサキは間違えて従業員用トイレに行ったのだと思ったのだろう。
「やだもう・・・てっきり・・・あの場所に行ったのかと思ってましたよ」
やや遅い口調で、ユウナが言った。
「え? あの場所って?」
「・・・ハラハラつり橋の辺りです」
「ハラハラつり橋? ・・・ああ・・・あの時の場所・・・」
ミサキがそう言うと、ユウナはミサキの顔をじっと見つめはじめた。
その話をすると同時に、2人にあの時の記憶がよみがえった。
大雨で雷鳴が轟く悪天候の中での出来事----
ユウナは思わず、両手で顔を覆った。
やがて指の隙間から、涙があふれ出てくる。
「・・・ごめんなさい・・・。もう、何て言ったらいいのか、わからなくて・・・」
思わずユウナは謝った。
「謝る事ないわ。だって、どうしたらいいか、わからなくて当然なんだもの」
ミサキは、そっとユウナを両腕で包んだ。
それはまるで、母親のように-----
言葉は要らない。お互いに。
ユウナもミサキも、心の奥底に仕舞い込んでいた あの時の出来事が、まるで封印が解かれたかのように噴き出してきた。
しかしお互いに、なにも言わなかった。
いや、言わなくてもお互いに わかるだろう。
しかし、そんな2人の雰囲気をぶち壊す大声が降ってくるとは思わなかった。
「おい入るぞ!」
その大声は、ミサキはもちろん、ユウナも聞き覚えがある声であった。
「リョウ!?」
「リョウさん!?」
ユウナは上司の乱入に、慌ててピシッと背筋を伸ばして直立した。泣いていて腫れてる目はそのままだが。
一方ミサキは、「リョウ!」と一言だけ言ったのだった。
「・・・すまん。 なんか邪魔したみたいだな」
慌ててリョウは医務室を出ようとした。
「あ、待ってリョウ! 何かあるんだったら、そのまま出て行かないでよ!」
ミサキが言った。
「いや、ちょっと様子見に来ただけなんだ。 ミサキとユウナのな」
「ああ・・・ありがとう・・・」
ミサキが礼を言ったのだが・・・
「ユウナが倒れたって聞いたからな」
「あ・・・」
返答に困っていたユウナだった。
返答に困っていたユウナの代わりに、ミサキが説明をした。
ユウナから見て、運ばれてきた女性が、かつて自分をかばって死んだと思っていた相手だと知らずに話をしていたから、という事を----
その説明にリョウは、「倒れたって、驚いて気を失ったのか!」と言った。
死んだと思った相手が生きていて、かつ、自分の目の前にいて、知らずに話していたとなれば、驚かないというのが無理な話なのである。
「一通り話聞いたから、俺は業務に戻るけど・・・」
リョウはそう言って、ユウナの方に向きなおし、「今すぐにとは言わんが、ユウナも業務に戻ってこいよ。」と言った。
「はい」
ユウナは返事をした。