降りしきる雨の中、ミサキは先ほど教えてもらった迷子がいる方向へと向かっていた。
「雨脚が、少しでもゆるくなるといいんだけど・・・」
雨季とはいっても、ずっと雨が降っているというわけではない。
雨脚がゆるんだり晴れ間が出たりと、どちらかというと雨が占める時間が多い気まぐれ天気、といった感じなのだ。
「・・・あ!」
ミサキは声を上げた。
「あれが迷子かも?」
彼女が見たのは、滝横にある、木々の綺麗な景色の中でウロウロしている小さな女の子だった。
その女の子に向かって、ミサキはダッシュした。
そして女の子の前でしゃがみ、「ねえあなた迷子でしょ?」と、言おうとした瞬間、
「きゃあっ!」という声とともに、べしゃっと音をたて、派手に転倒してしまった。
そもそも体中が雨でぬれているのと、地面がぬれていたという事もあって、しゃがんだ瞬間バランスを崩してしまったのだ。
そんなミサキの様子を見た女の子は、「・・・大丈夫?」と言ったのだった。
ミサキは改めて女の子に聞いた。
「こんな場所に、1人でどうしたの?」
しかし女の子の答えは「・・・わからない」だった。
「お母さんやお父さんは?」
「・・・」
「んー・・・。 はぐれちゃったのかな? いつからひとりで歩いてたの?」
「噴水のところまでママと一緒だったの・・・」
噴水の場所、といえば、タウンの中心部の『願いの泉』の事である。
おそらく今日は雨天でスポーツは無理なので、親たちと観光や買い物をしていて、その際にはぐれたのだろう。
ミサキは女の子の服と靴を確認してみた。
無線連絡と同じ、○○キャラの絵のピンク色の服と△△のロゴ入りの赤い靴。
もちろん連絡と違った迷子だった場合は、無線で他の隊員に連絡するつもりなのだが。
「それにしても、願いの泉からここまでって、そんなに遠くないとはいえ結構距離あるのに。 子供のバイタリティってすごいわ。
・・・っと、感心している場合じゃないわね」
ミサキは無線機を取り出した。
「こちらミサキです。 件の迷子発見しました。 連絡と同じ○○キャラの絵のピンク色の服に△△のロゴ入りの赤い靴です」
「了解。 発見場所は?」
応対したのは迷子の連絡を発したリョウではなく本部の受付係だった。
「マラソン広場の北の、ハラハラつり橋の辺りです」
「ずいぶんと歩いてたのねえ・・・」
「雨脚が弱まりそうにもないので、崖のかげで、しばらく迷子と雨宿りします」
「了解」
ミサキは無線を切ると、女の子の方を向き、「雨が弱くなるまで雨宿りしようね」と言った。
女の子は返事をしなかった。
ミサキは この土地の係員とはいえ、女の子にとっては知らない人である。警戒しているのだ。
「雨宿りして、雨が弱くなったら、ママ達を探そ」
とりあえず下手に動かない方がいい、というのもある。
ミサキは、崖でかげになっている場所を指し、
「あの場所なら、向こう側から見えるから、ママ達が探しに来た場合、すぐにわかるわよ」と言った。
向こう側というのは、タウン方面の事である。
願いの泉あたりで はぐれたという事は、探しに来る場合はあの方面から来る可能性が高いのだ。
それを聞き、やっと女の子は「・・・うん」と言った。
「さあ向こうの方へ行・・・」
と、ミサキが少女の手を取ろうとした時-----空が一瞬光った。
「きゃっ!」という声とともに、彼女の動きが一瞬止まったものの、すぐに女の子の方を向き、「・・・あ、ごめんね」と言ったあと、
改めて「早く向こうの方に行きましょ」と言ったのだった。
ミサキが女の子の手を引いて向かっている崖のかげになっている場所は、完全に雨が防げるというわけではない。
ただ、本当に、一時的な雨宿りする場所、といった感じの場所なのだ。
「この場所で、しばらく雨宿りして待ってましょ。ほら見て」
雨宿り場所の、崖のかげになっている場所にたどり着き、ミサキはタウンの方を指さした。
「見て。 向こう側からこっち側が見えるから、もしママ達がこちら方面に探しに来たとしても、すぐにわかるわよ」
「・・・ほんとだ。 見えるね」
「迷子になってる場合は、あまり動き回らない方がいいのよ。 道に迷ったりするのを防ぐ意味でもね」
「・・・うん」
「それにしても暑いわあ! この場所は雨に濡れないし、レインスーツ脱いじゃお!」
もちろん、レインスーツの中は普段のユニフォーム、つまり普段の巡回時の服装なのである。
バサバサと激しい音を立ててミサキはレインスーツを脱ぎ、軽くたたんで地面に置いた。
「・・・それにしても、この子の方は、どうしようかなあ・・・」
女の子の方は、大雨の中カッパを着てるわけでもなく、傘をさしていたわけでもないので、ずぶ濡れの状態だ。
濡れている服を着たままだと風邪をひくかもしれない。 なので一旦服を脱がせた方がいいのだが・・・
「寒い・・・」と、女の子が言った。
ミサキは、女の子の濡れている服を一旦脱がせて、レインスーツの上部を着せようかと思い、
「ねえ。 濡れてる服を着たままだと寒いし風邪ひくかもしれないわ。 一旦脱いで、しばらくは私のレインスーツの上を着てみる?」
と聞いてみたのだが、こんな答えが返ってきた。
「やだ。 ○○の服を脱ぎたくないもん」
○○は、女の子が着ている服に描かれているキャラクターの名前である。
しかし濡れている服を脱ぐことを拒まれては仕方がない。 それはそのままにする事にした。
「そっか。 ○○が好きなのね」
そう言って、崖の壁にもたれてミサキは地面に座った。女の子も横に座る。
女の子は再度「寒い・・・」と言った。
「おいで。 私にもたれて」
ミサキは女の子の方に手を伸ばした。
それに応じるような感じで女の子はミサキに体をくっつけ、もたれかかった。
ミサキは女の子の体にレインスーツの上部をかぶせ、その上から腕で包むような体制になった。
「ちょっとでも暖かくなるように・・・。 暑かったら言ってね」
「あなたお名前は?」
「・・・ユウナ」
「そっか。 ユウナちゃんっていうんだ。 私はミサキよ」
「・・・ミサキ・・・ちゃん・・・」
名前をちゃん付けされ、ミサキは笑い始めた。
「ちゃん付けされるなんて、何年ぶりかしら」と。
どこから来たの、いつからウーフーアイランドにいるの、など、他愛もない話のやりとりを、彼女たちは始めた。
ユウナを探しに来た保護者達が来るまでの時間つなぎはもちろん、リラックスさせる目的もある。