バサバサバサッ!

「あ、すまん・・・」

そう言って手から落ちたファイルを、リョウは拾い始めた。

床の上のファイルを拾い上げ、そろえ始める。


ミサキが迷子をかばって大木の下敷きになった事故から15年経った。

基本的に こういったケースでは、かばわれた側へは、かばった側が、その後どうなったかの連絡はない。

あの時の女の子はもちろん両親側も、ミサキがあの後どうなったかは知らされていない。

ただ、助かってよかったですね、といった事しか伝わって来ないのだ。

そして、今ミサキは、ここにいない----


「リョウさん」

名前を呼ばれ、リョウは我に帰った。

「どうかしましたか?」

そう聞かれたものの、彼は「なんでもない・・・」とだけ答えたのだった。



子供の時に、安全を守る仕事の人に助けられた、という動機で、大人になったらその仕事に就く、というケースは実際に多い。

リョウも、これまでそういった新人を何人か見たことはあった。

今日は、ここウーフーアイランドで、スポーツする人や観光客の安全を守る仕事の、新人が入ってくる日だった。

「小さい頃にここに来たときに、ここの安全を守る仕事の人に助けてもらって・・・」

「ああ、そういう動機でこの仕事に就いた人は多いぞ」

新人の自己紹介時には、そんな話のやりとりは珍しくない。

ただ、今年の新人の中には、従来とは違ったタイプの者がいた。

「その日は大雨だったんです。 雨の時期だったそうで。 その時迷子になって、ここの人に助けてもらったんです」

「雨季の迷子か・・・」


----雨季の迷子か。 なんか引っかかるものがあるな。

ミサキの事故の件の迷子の女の子も、今だと今日入ってきた若い新人ぐらいの年齢になってるんだろうな。

リョウがそう考えた直後、彼は思わず手にしていたファイルを床に落としてしまった。

----まさか、あの時の女の子か!?




「あ、ちょっとすまん。 聞きたいことがあるんだが」

廊下でリョウは、新人の1人に声をかけた。 もちろん、先ほどの『雨季の迷子』の話の者である。

「はい」

「さっきの、この仕事に就くきっかけが、ここで雨季に来たときに迷子になって、ここの隊員に助けてもらった事だって言ってたよな」

「・・・はい」

「詳しく教えてくれないか」

新人は一瞬驚いた顔をしたが、直後に「はい」と言った。

「あの日は大雨だったんです。 もともとウーフーアイランドを旅行するのはスポーツするのが目的だったんですが、

 雨季だという事を両親は知らなくて予約を入れてしまって」

「常時いい天気のイメージあるからな、ここは」

「雨だと室内でできるスポーツはボウリングぐらいしかできないんですが、ボウリングなら地元でもできる、という事もあり、

 かなりご機嫌斜めな状態で、両親は私を連れてタウンでショッピングをしてたんです」

「ふむ」

「ショッピングの最中に、私が迷子になったようで・・・」

「ふむ」

「あまり覚えてないんですが、大雨の中、私はウロウロと歩いていたそうなんです。 それをここの女性隊員に保護されたんです」

新人はそう言うと、少し顔をこわばらせた。

「どうした? もし、言いたくない事なんだったら無理に言わなくてもいいんだぞ」

「あ・・・、いえ・・・。 実はその日は、雷が鳴り響いたりしていて、その影響で木が倒れてきて・・・」

----やはり、あの時の女の子か!

しかし、そうとは言えず、リョウは黙って聞いていた。

「その時の事は、本当に覚えてないんです。 ただ・・・その隊員は・・・私をかばって・・・」

新人の言葉が途切れ途切れになった。 そして身体をこわばらせる。

あわててリョウは、「ああ、悪い事聞いちまったな。 すまん」と言った。

「あ・・・、いえ・・・。 この仕事に就いたら、いつか聞かれると思ってましたから」



「いつか聞かれる、か・・・。 いつかどころか、しょっぱなから俺に聞かれたってわけだな」

しかも予想がビンゴだったし・・・

リョウは、去っていく新人の背中をしばらく見ていたが、直後「・・・あ!」と言って、慌てて走っていった。

「すまんな引き留めて。 ちょっと聞きたい事があるんだが」

新人は、素直に「はい」と言った。

「その隊員の特徴を何か覚えてないか?」

「・・・特徴かどうかはわからないですけど・・・」

「些細な事でも構わん」

「雷を怖がってました」


-----やはり間違いない! その隊員はミサキの事だ!


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