場所はウーフーアイランドから離れた島。

この島は、ウーフーアイランドと同様に、常夏のリゾート地である。


そして、そこで働く女性がいた。 年齢はリョウと同じぐらいで、仕事もリョウと同じく島のスポーツプレイヤーや観光客の安全を守る仕事である。

巡回から戻ってきた彼女は、休憩室に戻る最中に呼び止められた。

「あ! 戻られたんですね。 伝言があります」

「あら私に伝言?」

「はい。 ウーフーアイランドのリョウさんから電話がありました。 またかける、との事です」

「リョウから? 珍しいわね。どうしたのかしら」

「電話の時間は今から20分程前です」

「ありがとう」

何かいいお知らせでも聞けるのかしら、と、その女性はウキウキしていた。

しかし彼女は数十分後には、それとはまったく逆の様子になっていた。

「・・・ちょっと休憩室でコーヒー飲んでくるわ」

少々顔色の良くない様子で、彼女は言ったのだった。



休憩室。

女性は、紙コップに入ったコーヒーを手に、考え込んでいた。

考え込んでいた内容は、さきほどの電話の件である。


話は電話の時に戻る。

再度リョウからかかってきた電話に対し、女性は、

「久しぶりじゃないの、どうしたのリョウ。 急に電話かけてきたりして」

と、他愛もない様子で電話に応じていたのだったが-----

『15年前のウーフーアイランドでの雨季の迷子の件を覚えてるか? ユウナって名前なんだが』

「もちろん、応対した本人なんだから覚えてるわよ。 木が倒れてきた時の迷子でしょ? 名前も憶えてるわ」

『その時の女の子が、俺の所に新人として入ってきたんだ』

「----なんですって!?」

『俺も偶然だと思ったんだ。 でも、話聞いたら、当時の女の子と見て間違いなさそうなんだよ』

「・・・何て言ってたの?」

『15年前の雨季にウーフーアイランドに旅行に来たときに迷子になって、その時に、ここの安全を守る女性係員に保護された。

 その日は雷鳴が鳴り響いていて、その影響で木が倒れてきた。 その係員に倒れてきた木から自分をかばってくれた、と言ってたんだが・・・』

「・・・」

『その係員の特徴のひとつに、雷を怖がっていたという話もあったんだ』

「・・・」

『ユウナが話している様子だと、ミサキの事を、自分をかばって死んだと思っているようだ』

「----!!」

受話器を手に、女性は固まった。

---あの時の女の子が・・・。 まさかこの仕事に就くとは・・・。 しかもリョウのところに新人で来るとは・・・


そう。

この女性は、15年前にユウナをかばって大木の下敷きになった本人のミサキである。

ミサキは確かに大木の下敷きになった。 しかし、木の幹ではなく、木の幹から少しずれた枝や葉が密集する部分の下敷きになったのだ。

木の枝や葉が密集する部分は大きいため、木の幹からずれた部分の下敷きになったというのは、はたから見てわからないのである。

まともに大木の幹の下敷きになっていたならば、ミサキは今頃はここにいないのだ。



電話での話を思い返し、ミサキは「ああ・・・」と言って両手で顔を覆った。

あの事故は、私の不注意が原因でもあるのよ----

迷子のユウナと一緒に雨宿りをしている時に、自分は居眠りをしてしまったのだ。

そのため、トイレに行きたくなったユウナは、ひとりでトイレを探していたのだった。

あの場所は周辺にトイレはなかったものの、一緒に用を足す場所を探していたのに。

そうしていたなら、倒れてくる木の巻き添えを食う事もなかったかもしれなかったのに。


「・・・」

雨季のウーフーアイランドは、普段とは違った意味で忙しい。

観光客やスカイスポーツが目的の者のなかには下調べを全くせず、安い価格に飛びついてしまい、現地に着いてから雨季だという事を知り愕然とする者もいる。

しかし雨の中を、強引にスカイスポーツを強行する者もなかには出てくる。

引き留めるも「やめたら返金してくれるのか?」や、「せっかく取れた休みなんだ!無駄にしたくない!」など言って、聞かない者もいる。

また、ミサキが迷子の応対とした時と同時にリョウが応対した、悪天候にサーフボードなどの水上スポーツをしようとする者も出てくる。

悪天候時は波が荒いため、スリルのある波乗りが出来ると思った悪質な波乗り者がいるのだ。

そういった困った客が多発するのと同時に、この時期は1年の中で観光客・スポーツ客が少ないため、休暇を取る従業員が多い。

休みが減ったり困った客が増えたりと多忙になるため、ミサキは疲れていたのだ。

なので、雨宿りの最中に、ユウナと一緒に座った時に、つい居眠りをしてしまったのだ----

もちろん、客にとっては、従業員が多忙で疲れていようが知った事ではないのだが。



ミサキは一口コーヒーをすすり、改めて電話の話を思い返した。

『俺の考えとしては----ユウナをミサキに会わせてやりたい。 自分をかばって大木の下敷きになった人が生きてる事を見せたいんだ』

「私もそう思うわ」

『おそらくこのタイプは、仕事で張り切り過ぎる事になると思うんだ。

 自分をかばって死んだ人がいると思い込んでるから自分も同じように、と、無茶する可能性もある』

「確かに」

安全を守る仕事は、時折、熱血な新人が入ってくる事がある。 その場合、張り切り過ぎて短期間でオーバーヒートしてしまう可能性が高い。

ただ、ユウナの場合は事情が違ってくるのだが・・・

『しかし、会せるには問題が多々あると思うんだ』

「?」

『まずは いつ話そうか、という事だ。 正直どのタイミングで言っていいかわからん。 それに迷子当時と違って今のユウナは俺の後輩でもあり部下でもある。

 それから今は、こちらで当時の事を知ってるのは一握りだ』

「ウーフーアイランド内で当時の事を知ってるのは現在はリョウ以外は、ほとんどいないものね・・・」

当時の事情を知ってる同僚のほとんどが、異動で他の土地に行ってしまったか、退職したかのどちらかなのだ。

ミサキも現在ウーフーアイランドと違う土地で仕事をしているのは、単に異動によるものである。

『それから、いつ会わせようか、という問題もある。 また、会せてからどうユウナに接したらいいのか、という事と、

 逆にユウナからしたら自分をかばった人が生きていたという事を知って、どう考えるか、という問題も含んでる』

「・・・そうよね」

『・・・俺思ったんだがな、ユウナにミサキに会わせるのは、今すぐじゃない方がいいと思うんだ。 でも折を見て会せてやりたいと思ってる』






ミサキは電話での話を思い返し、ため息をつきながら、コーヒーの紙コップを口に近づけた。

「折を見て、か・・・。 確かにすぐに会うのも無理があるとはいえ、いつがいいのかしら・・・」


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