場所は戻ってウーフーアイランド。 リョウは今、ハラハラつり橋の近くにいる。
15年前に落雷の影響で倒れてきた大木にミサキが下敷きになった現場だ。
あの後に木の補強や植え替えが行われたので、現在は周辺の木や植物にはその面影はない。
「・・・とはいえ・・・」
リョウはため息をついた。
-----どう伝えろって言うんだ!
彼が悩んでいるのは、ユウナへ真実を伝える方法であった。
理屈では簡単だ。 本人に伝えればいいのだから。
そして自分をかばった者が生きているという証明のため会わせる。
しかし実際には簡単ではない。
まずはユウナをミサキに会わせるなら、両方の都合を合わせないといけない。
ミサキが今いる島は、ウーフーアイランドからかなり離れていて、スカイスポーツ用のジェット機では到着不可能な距離にある。
また現在ミサキはリョウと同様に部下や後輩がいて、指示や指導をしなければいけないという立場にあるため、簡単に長い休暇が取れないのだ。
しかし、別の問題もあった。
「仕事以外の件で、男の上司が女性の部下1人を呼び出すだなんて、傍から見たらどう思うだろうな・・・」
「誰かここに呼び出すのかい?」
背後から声がした。
「いや・・・別に!」
動揺しながらリョウは振り返った。
「なんだミゲルかよ。 おどかすなよ」
声をかけたのはミゲルだった。 通称『ガイド気取りのミゲル』だ。
「ここって15年前に、落雷の影響で木が倒れた場所だよな。 お前、なんか物思いにふけってたみたいだけどさ」
「いや、ちょっとな・・・」
「さっきも言ったけど、誰か呼び出すのかい?」
「あー・・・いや、呼び出すのは本当だけど今すぐじゃない。 それどころか、いつになるかわからないんだ」
「もしかして、ミサキを呼ぶのか?」
少し笑いながらミゲルが言った。 彼は、さっき話していた通り、ミサキの事故の件は知っている。
「まあミサキも呼ぶのは確かだけどな」
「ミサキも呼ぶ、って事は、他に誰か呼ぶのか?」
「もうひとり、木が倒れた事故の時にミサキと一緒にいた迷子を呼ぶんだ」
「おい冗談はよせよ! 呼び出してどうする気だ? それ以前にどうやって呼ぶんだよ。 15年も前の事だぞ!」
「やはり冗談に聞こえるか」
「当たり前だろ」
「・・・だろうな」
わけわかんねー、と言わんばかりにミゲルは妙な目つきでリョウを見ていたが・・・
「!」
一瞬彼の動きが止まった。
「・・・まさか、当時の迷子が今、ウーフーアイランドに来てるのか?」
「その通りだ。 その迷子が来てる。でもスポーツ目的や観光客でもない」
「なんだよ・・・。 もしかして従業員で働いてる人か?」
「その通りだ」
「どこの場所だよ。 ホテル・シーサイド・スーペリアの係員か? 願いの泉の清掃員か? ウェッジ島のゴルフキャディとか?」
「俺から見たら、もっと身近な所だ」
「何だよ?」
「俺の所に新人として入ってきた隊員だ」
「・・・本当かよ!? ここで迷子になった子供は昔から山ほどいるぞ。 偶然じゃないのか?」
ミゲルのその問いに対し、リョウは空を見上げ、ゆっくりとこう言ったのだった。
「偶然ならいいんだけどな・・・。 話聞いたら、迷子になったのは15年前の雨季、迷子の際に保護したのは女性隊員、
落雷の衝撃で木が倒れてきた、という事と・・・他に決定打になった事がある」
「・・・なんだ?」
リョウは目線を戻してこう言った。
「その隊員は雷を怖がっていたという事だ」
「・・・ミサキは雷を怖がってたもんなあ・・・。 確かに合致するな」
「・・・で、その新人と、ミサキを会わせるのか?」
「もちろん会わせるつもりなんだが・・・」
「ああ確かにミサキが今いる所は遠いからな。 すぐは無理だな」
「それもあるんだが」
リョウが話をしようとしたその時、ミゲルの服のポケットから音楽が鳴った。 携帯の呼び出し音だ。
「はいはい♪」
軽い感じで電話に出たミゲルだが、直後驚いた様子になった。
やがて彼は慌てて電話を切ると、こう言った。
「俺、戻るわ。 スタントフライトの予約入ってたの、すっかり忘れてたよ」
ミゲルはウーフースカイクラブの事務所の方に、早歩きで戻っていった。
「それにしても」
ミゲルは少し離れた場所まで歩くと、リョウの方を向いた。
「さっきも言ってたけど、あの迷子に真実を伝えるのもミサキに会わせるのも、ずいぶん先になりそうだな・・・」