「やれやれ。 毎年の事ながら、よくふる雨だな・・・」

窓ガラスごしに外の雨を見ながらリョウはつぶやいてた。

「ま、雨季あっての暑い気候なんだがな---」



「あのリョウさん」

背後から部下隊員が彼を呼んだ。

「ん? なんだ?」

「大雨のなか、傘もささずにずぶ濡れで、妙にウロウロしている人がいる、という通報があったのですが」

「迷子か?」

「いや、迷『子』じゃないです」

「大人か。 不審者情報か?」

「不審者ではなさそうです」

「それなら探し物かなんかの可能性があるな。場所はどこだ?」

「ハラハラつり橋の辺りです」

「ハラハラつり橋の辺りか」

リョウは腕時計を見、「もうすぐ俺の休憩時間が終わるから、今から確認に行ってくる」と言った。

「はい。 お願いします」

手早くレインスーツを着たリョウは、自転車でハラハラつり橋の方へ向かった。

ハラハラつり橋の辺りは、滝があり、大人でも危険な場所でもある。

もちろん、よほどの不注意がなければ問題ないのだが。



ハラハラつり橋はタウンの北にある。

リョウはタウンのはずれに自転車を止めてワイヤーチェーンをかけ、歩いて向かった。





「あの人か」

リョウはハラハラつり橋の真下辺りで、つっ立ってる大人の女性を発見した。

その人の服装は軽いもので、ここのような土地に来るのが初めてじゃないというのが、ひと目でわかる感じだった。

「それにしても何してるんだろ。 こんな大雨の中に傘もささずに観光・・・じゃないよな」

歩いてその人に近づいていくリョウだったが・・・

その女性は、その場に崩れるように倒れはじめた。


「あ!」

リョウは慌ててその女性の方に走って行った。

「大丈夫ですか!」

彼はそう言って、女性の上半身を抱きかかえる形で起こした。

そしてその女性の顔をよく見て、驚いた。

「・・・!」

一瞬目を疑ったが、直後にこう言った。

「・・・ミサキ・・・!?」

なんとこの辺りをウロウロしている者とは、ミサキだったのだ。


「おいミサキ! なんでこんな所にいるんだよ!」

リョウはミサキに大声で話しかけた。

しかし、ミサキは気を失ったまま返事はしなかった。

「・・・」

彼はミサキを横向きに抱きかかえると、走り始めた。



「リョウさんおかえりなさ・・・」

ウーフースカイクラブ フロントにいた部下隊員が、戻ってきたリョウの姿を見て驚いた。

「無線で連絡して下されば、担架をお持ちしたのに・・・」

しかしリョウは、無言で医務室に向かっていった。

「どうしたんだろ・・・」

部下隊員は、無言で去っていくリョウの後ろ姿を黙って見ていた。



コンコン。

医務室のドアをノックする音がした。音の主はリョウである。

「どうぞー」という声が返ってきた。

ややモタモタした感じでリョウはドアを開けた。

「ちょっと手伝ってくれませんか」

「あら」

気を失った女性を抱きかかえているリョウを見て驚いた様子で、椅子に座っていた女性の医務担当者が言った。

「大雨の中で倒れてたのかしら?」

「・・・まあそんな感じです」

「とりあえず、濡れてる服を脱がせて違う服に着せないとね」

そう言って医務担当者は、倉庫からジャージを取り出してきた。

「まずは着替えさせる前に、身体を拭かなきゃ・・・」

「あ、手伝います」

「手伝っちゃだめよ」

医務担当者のこの言葉に、リョウは「そうでしたね、すみません・・・」と言い、「しばらく部屋の端にいます」と言った。


「・・・なんか様子が変ね。 もしかして運んできた女性って、リョウの知り合い?」

医務担当者にそう聞かれ、リョウは素直に「そうです」と答えた。

「ふーん」

やっぱり、といった感じで、医務担当者はミサキの所持している身分証明書を見始めた。

これは倒れていた者の身元確認の意味でもある。

「A島安全保安担当だって・・・。 リョウと同業者ね。A島安全保安担当 副隊長 ミサキ・・・」

「副隊長だって!?」

「こら、大声出すんじゃないの」

「・・・すみません・・・」


ミサキを着替えさせた医務担当者は、こんな話を始めた。

「少し前にA島に住んでる友達からメールがあってね。 まあ噂話大好きな人なんだけど。

 A島でリョウのように観光客やスポーツ客の安全を守る仕事で やり手の女性隊員がいて、

 その女性隊員が今年の雨季に、ウーフーアイランドに会いたい人がいるから、と強引に休みを取ったんだって。

 なんだかロマンチックな話だわあ、って言ってたけど・・・」

「その女性隊員は、多分ミサキの事です」

「・・・でしょうね。 ところで会いたい相手って誰なのかわからないかしら?」

医務担当者の口ぶりは、この会いたい相手の対象者はリョウは対象外だという事が既にわかっているようだ。

もしリョウだったら、既にミサキはウーフースカイクラブの事務所に来ているだろう。

「話すと長くなるんですが・・・」




「・・・その時の迷子が、今年入った新人隊員なのね」

「はい」

「そっか・・・。 子供の時に助けてくれた人と同じ職業に就く、ってのはよくある話ではあるけど、その新人隊員は事情が違ってくるわね。

 そのミサキさんの事を、自分をかばって死んだと思ってるから。 それから、ミサキさんは、その当時の迷子に会いに、ここに来た、と・・・」

「はっきりしていないけど、ミサキが会いたい相手は、その迷子だった新人隊員だと思います。 他に心当たりないし・・・」


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