「あー疲れた。 みんなすごいんだから・・・」
よいしょ、という感じでミーアはベンチに座った。
今日はフェスの日。 フェスバトルの勝敗結果により普段手に入らないスーパーサザエがもらえる数が左右されるという事もあり、みんなバトルに必死だった。
ミーアはクールダウンも兼ねて、ハイカラシティ広場のベンチで休憩していた。
「ジュースでも買ってこようかなあ・・・」
彼女がそう思っている時だった。
突然、背後から頭部のゲソを掴む者がいた。
「きゃっ!」
びっくりしてミーアは振り向いた。
そこにいたのは----インクリングの幼体の女の子だった。
幼体の女の子は、ミーアの顔を見て、こう言った。
「お兄ちゃん・・・どこ?」
ミーアはしばらく考え、やがてこう言った。
「・・・あ! 迷子なのね。 お兄ちゃんと来て、はぐれたのかな?」
「ひとりで来たの」
「ひとりで来たの!? すごいわねえ!」
確かにハイカラシティは電車もバスも行き来していて、降りる駅さえ間違わなければ幼い者でも来る事ができるが・・・
とはいえ、人型になっていないインクリングの幼体だと、しっかりと歩くことができず、転倒してしまう事も、しばしばある。
下手すると事故が起きてたかもしれない。
そんな状態で、よくここまで来れたなあと、ミーアは、ただただ驚くばかりであった。
「お兄ちゃんはどこにいるのか、わかるのかな?」
大まかな場所がわかれば、その場所に連れて行こう、とミーアは思ったのだ。
「・・・ハイカラシティ・・・」
幼体の女の子は、そう答えただけだった。
「あー・・・えーっと・・・」
漠然とした答えしか返ってこなかったので、ミーアは困った。
「ハイカラシティの、どの辺りにいるのか、わかるかな?」
「わからない。 ハイカラシティとしか知らない」
「・・・」
----これは・・・。そのお兄ちゃんと会わせるのに時間かかりそうね。
フェスバトルの参加時間なくなっちゃうけど、こんな小さい子を放っておくわけにもいかないわよねえ。
まずはその『お兄ちゃん』が、ハイカラシティで何してる人なのか聞いてみれば、わかるかもしれない。
ここに来るインクリング全員がナワバリバトルやガチマッチ、バトルドージョーなどのバトル目的で来ているとは限らない。
係員として働いている事もあるのだ。
・・・その前に。
「お嬢ちゃんお名前は?」
名前を聞こうとしたのだが、おかしな言い方になってしまった。
お嬢ちゃん、って・・・。 と、直後ミーアは苦笑した。
幼体の女の子は「・・・ソフィア」と答えた。
「ソフィアちゃん、か・・・。 お兄ちゃんの名前は?」
「エリック」
「お兄ちゃんはハイカラシティでは、ナワバリバトルをしているの? あ、ガチマッチも参加する?」
ガチマッチはランク10以上じゃないと参加できない。 これによりエリックがバトル初心者なのか、上級者なのか、中級者なのかが聞き出せる。
「ナワバリバトルしてるんだけど、ガチマッチ目指してるんだって」
これにより、『お兄ちゃん』のエリックが、ランク10未満だという事がわかったのだが・・・
広場では、大きなトラックが2台止まっていて、それを舞台にしてシオカラーズの2人が音楽に合わせて踊っている。
そして大勢のインクリング達が、彼女たちに注目しながら同様に踊っている。
「ソフィアちゃん、広場で踊ってる人達の中から、お兄ちゃんを探してみようか?」
ところがソフィアから思わぬ言葉が出てきたのだった。
「お兄ちゃんは踊ってる人達と違う服を着てるの」
「・・・え?」
フェスの間は強制的に指定の服しか着られないようになっている。
もし偶然にもフェスの日にナワバリバトルを始める場合でも、初期の服装の『わかばイカTシャツ』ではなくフェス専用の服を着るように強制されるのだ。
現にミーアも、フェス用の服装を着ていた。
「そ、そっか・・・。 違う服装なら、探すの簡単かもしれない・・・かもね」
「お兄ちゃんにいつも言ってるの。 わたしが人型に成長したら、一緒にナワバリバトルに行こうって」
「うんうん。 早く人型に成長して一緒にナワバリバトルに行けるといいね」
「うん!」
----さて、その『お兄ちゃん』を、どう探そうか・・・
まずは広場のほとんどの部分が、フェスTシャツを着て踊っている者ばかりなので、その『お兄ちゃん』は、広場の隅、もしくは外れにいる可能性が高い。
とはいえ、フェスTシャツを着ていないイカボーイに対して片っ端から「エリックですか?」と聞いて回るのも時間がかかりそうだ。
また、フェス期間中はフェスTシャツを着ていないとナワバリバトルには参加できないので、バトル会場には居ない事は確かだ。
「とりあえず、広場の隅から探そうかしらね。 はぐれないよう、私の手につかまっててね」
とミーアは手を差し出した。 やはり手を繋がないと、再度迷子になる可能性だってあるのだ。
それに応じるように、ソフィアは両手でギュッとミーアの手を掴んだ。
「そこまでしなくても大丈夫よ。片手で充分よ」
ミーアはそう言って、ソフィアの手を握った。
「柔らかい手ね。 ぷにぷにしてるわ。 やはり幼体なのね」
とりあえず一旦、スロープを上って行き、上から見渡してみる事にした。
「それにしても・・・。 フェスの日にフェスバトルに参加しないのに、ここに来るなんて、なんか理由があるのかしら?」
もちろん、お祭り気分の雰囲気が好きだというのもあるかもしれないが・・・
「一旦坂道を上がるわよ。 デコボコにつまづかないように気を付けてね」
ミーアの言うデコボコとは点字ブロックの事である。
人型の場合気にする程のデコボコではないのだが、小さい幼体にとっては、つまづいて転倒してしまう可能性もあるのだ。