スロープを上りきると、ミーアとソフィアは柵に手をかけ、広場を見下ろした。
柵の細い柱と柱の間が幅広いため、小さいソフィアが転落してしまう可能性があるため、
ミーアはソフィアの腕をしっかりと掴んでいた。
「ここから見渡してみて、どう? お兄ちゃんいる? 」
「お姉ちゃんも一緒に探して」
「うん。 特長は何?着てる服とか」
「赤い帽子でイカの絵のようなマークがあって、」
「ヤコメッシュね」
「『いか』と書いてる濃い黄色のTシャツ着てて、」
「わかばイカTシャツね」
「白いスニーカー履いてるの」
「白い靴はたくさん種類があるからわからないけど・・・もしかしてキャンバスホワイトかしら・・・」
「持ってるブキは何かしら」
「・・・名前わかんない」
確かにナワバリバトルをしていない者には、ブキの名前はわからないものだ。
「そうか・・・。 じゃあブキはどんな形しているのかな?」
「四角いの持ってた!」
「わかばシューターかな・・・?」
この特長からして、エリックは初心者の域を脱し始める頃の技量のようだ。
「でも、今日はフェスだから、フェスTシャツ以外の服装だと目立ちそうよねえ。 ましてや、わかばイカTシャツだと浮くぐらい目立ちそうだわ・・・」
ミーアがつぶやいたその時だった。
「いた! 濃い黄色の服!」と、ソフィアが身体を前に乗り出したのだ。
「あ! 危ないわよ!」
ミーアは慌ててソフィアの手を掴んだまま強く引っ張り、その勢いにより、2人とも後ろに転倒してしまった。
しかしソフィアは転倒したのをものともせずに、すぐに立ち上がると、スロープを駆け下りて行ったのだった。
「ああ・・・」
慌ててミーアは手すりの上に飛び乗ると、そのまま下の地面に向かって飛び降りた。 着地して、ソフィアを追いかける。
しかしなかなか追いつかない。
「足速いわねえ! 速度アップのギアでも着けてるのかしら・・・」なんて冗談を言いながら、ミーアは走って追いかけていく。
やがてソフィアが走っている方向の先に、黄色い服装のイカボーイがいるのが目についた。
「あの人が、お兄ちゃんなのかしら・・・?」
「お兄ちゃん見っけー!」
そういってソフィアは黄色い服装のイカボーイに飛びついた。
「・・・ソフィア・・・!?」
飛びつかれた側のイカボーイは、ソフィアを見て驚いた。 彼がソフィアの兄のエリックのようだ。
「まさか、1人で来たのか?」
「ハイカラシティまでは1人で来たの」
「ここには?」
「お姉ちゃんが一緒なの」
「お姉ちゃんって・・・?」
その2人の所に、ミーアはやっと追いついた。
「お姉ちゃんって、この人」と、ソフィアはミーアを指した。
「やっと追いついた・・・」そうつぶやきつつミーアはエリックの姿を見て驚いた。
頭部は確かにヤコメッシュをかぶっている。
服は確かに『いか』と書かれている濃い黄色のシャツだが、わかばイカTシャツではなくマスタードガサネだった。
靴は白色のホワイトアローズ、ブキは、わかばシューターと同様に四角い、もみじシューターだった。
てっきり初心者を脱したぐらいかと思ってたが、そこそこ技量があるランクのようだ。
ミーアの姿を見たエリックは、「ああ、どうもありがとうございます」と言って頭を下げた。
「いえいえ。 ・・・それにしてもソフィアちゃん、行動的よね。 最初、幼体の女の子が話しかけてきた時は驚いたわ」
「オレも1人でここまで来るとは思わなかったよ・・・」
エリックはそう言い、ソフィアの方を向いてこう言った。
「まだ幼体なのにこんな場所まで出歩いて、変な人にさらわれたらどうするんだ」
ソフィアはすぐに「はーい・・・ごめんなさい」と不満そうに言ったが、直後にこう言った。
「でもお兄ちゃん、こないだから全然家に帰って来ないじゃないの!」
「ええっ!?」
驚きの声を出したのはミーアだった。
「あ・・・いや、それは・・・」
返事に困るエリック。
「わたし心配したんだからね!」
ソフィアは、たたみかけるように大声で言った。
「心配かけちゃったか・・・すまん。 それにそちらの方も迷惑かけちゃったな・・・」
エリックはそう言ってミーアの方を見た。
「あ、私は別に・・・」
ミーアがそう言った。
「それにしても、まさかここで幼体と遭遇するとはねえ・・・」
ミーアがつぶやいた。 彼女は今、広場のベンチに座っている。
座っているというか、ベンチに身を委ねてるような感じだった。 疲れたのだ。
---あのあと、エリックはソフィアの手を引いて、ハイカラシティを後にした。
「無事に帰れたらいいんだけどな・・・」
夜空を見上げながら、ミーアがつぶやいた。
しかし直後、
「いや、無事に帰れないと大変だよね。 だってお兄ちゃんがしばらく帰ってないし、幼体の妹が1人でこんな所まで来たんだもの。
無事に帰れないと、お家の人が心配だよね」
と、思い直したのだった。
物語は続きます。兄妹が再会して終わりではありません・・・(汗)