「くそっ!」
デレックは壁に向かって拳をぶつけた。
あのあと仕方なく、試合参加辞退に同意し、サインもしたのだ。
もちろん同意もサインも『させられた』のは言うまでもない。
デレックはコロシアムの入口前で、足をとめた。
この場所には参加受付所場があり、その隣にはボランティア団体への募金箱が置いてある。
彼は募金箱の前に立ち、鞄から布袋を取り出した。布袋に入ってるのは、返金された参加費の金貨50枚である。
デレックは布袋から数枚、金貨を取り出した。そして布袋を募金箱の真上で逆さにした。
ザラーッと音をたて、中の金貨は募金箱の中へ落ちていった。
そして、布袋の中がカラになったのを確認すると、近くのごみ箱へ投げ捨てた。
そして、募金箱に入れる前に、あらかじめ取り出した数枚の金貨は、というと-----
「手を出しな」
コロシアム入口前の外れにいた物乞いに恵んでいたのだった。
ジャラッと音がする。
「あ・・・ありがとうございます!」
お礼の言葉を背に、デレックはコロシアムを去っていった。
場所は変わって、コロシアム内の医務室。
気を失っていたコンラッドが目を覚ました。
彼が横たわっているベッド横には、彼の剣士仲間と医者がいる。
「気が付きましたか」と医者が言った。
「ここは・・・」
「コロシアムの医務室です」
「医務室!?」
コンラッドは急激に起き上がろうとしたが-----
「いてて・・・」と、頭を押さえた。
「落ち着いて。急激に起き上がらないでください」
医者はそう言って、再度コンラッドを横たわらせた。
「闘技場で戦ってたのを覚えてますか」と、医者が聞いた。
「覚えてます」
コンラッドがそう答えた直後、剣士仲間が、
「お前も災難だったな。初戦の相手があれだもんな」
「初戦でスマブラに参戦したデレックと組み合わせになったからな」
と言って茶化し始めた。
「ああ、さっきの対戦相手は、あのデレックだったんだよな・・・。今頃は次の試合なんだろうな・・・」
コンラッドがそう言うと、思わぬ言葉が返ってきた。
「ああ、デレックなら参加辞退したって」
「なんだって!?」
コンラッドは驚いて起き上がろうとしてしまった。直後、頭を押さえて「いてて・・・」と言ってしまう。
彼は頭を押さえながら「勝ったのに?なんで次に進まずに辞退したんだ?」と聞いた。
「初戦で一撃で相手を倒したのを見て、辞退した参加者が続出したんだ。
これでは大会にならなくなってしまうって、開催者に参加辞退を薦められたんだよ」
「それであっさりと辞退したのか・・・?なんだかおかしくね?」
「この話は剣術大会の主催者による説明なんだがな。もしかしたら他に真相があるかもしれんが・・・」
「ところでコンラッドさん。試合中のどのあたりまで覚えてますか?」
医者が聞いた。
「試合が始まってからしばらくして、俺が剣を前方に突き出した辺り・・・かなあ・・・」
「その後は覚えてませんか」
「気が付いたら、ここにいました・・・」
「ふむ。では・・・頭を打った事は覚えてませんか」
「頭を・・・。そういえば、今、頭が痛いのは・・・」
「試合中にデレックの攻撃により転倒した時に、打ったものです。おそらく打ちどころが悪くて気を失ったのでしょう」
「ええ・・・」
-----つまり俺が負けた原因は、デレックの攻撃が直接的なのではなく、攻撃によって転倒した時に頭を打って気を失ったからか!
転倒したときに受け身を取ってたら、少しは状況は変わってたのかもしれないな!
コンラッドは、奇妙な負け原因を悔やんだ。