その日の夜。場所はコロシアム内の闘技場。
剣術大会の優勝者の表彰式が行われていた。
この剣術大会では、優勝者が賞金の何割かをボランティア団体の募金箱に入れる習慣があった。
その募金箱は、コロシアム出入口に置いてある募金箱だ。
「それでは、恒例の、賞金の一部の寄付を行います!」
大会主催者が、そう言って、募金箱を持ってこさせたが-----
募金箱は透明な外装で、どれぐらい入ってるか明確な物であった。
「・・・なんだか中に入ってるお金が例年より多くないか?」
コロシアム出入口の受付係員が、こう言った。
「あの・・・。参加辞退したデレックさんが、たくさん募金していって-----」
その係員の言葉に大会主催者が「余計な事しやがって、あの若造!」と、つい言ってしまったが、直後あわててこう言った。
「いやその・・・。デレック君は参加辞退して頂いたのだよ。初戦で一撃で相手を倒したのを見て参加辞退した者が続出したのでね。
自ら辞退したのと、こちらから辞退して頂くのとでは事情が違うから、参加費は返金したんだけどな。
しかしデレック君は要らないって言ったんだ。だから、要らないのだったら、コロシアム入口横の募金箱に入れたらどうだ、って薦めたんだよ」
もちろんそんな事実はない。大会開催者のデタラメである。
デレックは、この辺一帯の国の剣術を取り仕切る団体の幹部の圧力により参加辞退した上に、募金は自分の意志でしたのだ。
それに追加するかのように、受付係員が言った。
「出入口はずれにいた物乞いにも、一部を恵んでましたよ」
「は、はあ・・・。あいつは優しいヤツだな」
大会開催者は、汗をふきながらそう言った。
しかし、表彰式の参加者や観客は、大会主催者の言葉を聞き逃してはいなかった。
『余計な事しやがって、あの若造!』という言葉を。
------デレックが辞退したのは、他に理由があったんじゃないか?
彼らは、そう思っていた。しかし、場の空気を読むため黙っていた。
その日の夜遅くの時間。
場所は、コロシアムのある街の、街はずれにある小さな酒場。
そこにデレックがいた。
「オヤジ、バーボンおかわりくれ。ロックで」
オヤジと呼ばれた酒場の店主は「今日はずいぶんと飲みますねえ」と言った。
デレックはカウンターテーブルに片手で頬杖をついて、こう言った。
「どいつもこいつも、俺を化け物みたいに扱ってよぉ・・・」
街はずれの小さな酒場で飲んでるのには理由があった。
おそらく今日は、大きな酒場は剣術大会優勝者や、その応援者が酒盛りしている可能性があるからだ。
「今日△△の剣術大会があったんだけどさ」とデレックが言うと、
「私も観戦に行きましたよ」と店主が言った。
「俺、初戦で相手を一撃で倒したようでさ・・・」
「その試合、私も見てましたよ」
「ただでさえ、スマブラに参戦したという事で、勝手に強い奴だと思い込んでた奴が多くてさ・・・」
「実際あなたは強いじゃないですか」
「確かにそうかもしれないけど。ただ、俺の実力を、変に高く見てる奴がいるのが嫌なんだよ」
しばらくして店主は、バーボンのロックをデレックの目の前に置いた。グラスの中にはマドラー代わりにチョコプレッツェルが立ててあった。
デレックはチョコプレッツェルでグラスの中をグルグルとかき混ぜた後、そのままボリボリと食べたのだった。
そしてグラスを持ち上げるが、直後「ん?」と言った。
「ロックにマドラーは要らないんじゃないか?」
デレックがそう言うと、店主は笑いながらこう言った。
「今どれぐらい酔ってるのか確認したんですよ。確かにロックではマドラーは要らないですから」
(追加説明:好みでロックでもマドラー着けてる方もいます)
カランカラン♪
酒場のドアベルの音がした。
「いらっしゃいませ」と店主がドアの方を向いて言った。
入って来たのは数名の剣士で、彼らは一斉に「ここにいたのか!」と言い、デレックの横の席に座り、
「デレック!こんな所で飲んでたのか!」と言ったのだった。
入って来たのは、デレックの剣士仲間だった。
しかしデレックは、「今日は俺の事、ほっといてくれよ・・・」と言ったのだった。
「その様子だと、真相は知らないみたいだな」と、剣士仲間が言った。
「真相?どういう事だ?」
デレックが聞いた。
「お前は今日の対戦相手を、自分の攻撃で一撃で倒したと思ってるようだな」
「・・・まさか違うのか!?」
「全く違うというわけではないんだがな。剣で横向きに押し倒したような感じで、倒したというか転倒させたんだよな」
「・・・ああ、たしかに剣で転倒させたよ」
「その時に、相手は倒れて起き上がらなかったんだよな」
「・・・そうだけど」
「起き上がらなかった原因は、転倒したときに頭を打って気を失ったからなんだよ」
「・・・」
「転倒したときに受け身をしていれば、状況は変わってたかもしれないな」
「・・・俺の攻撃が直接的な原因じゃなかったんだ・・・間接的な原因ではあったけど・・・」