先程の盛り上がりとは打って変わり、会議室は静かになっていた。
部屋の前方にはホワイトボードがあり、横には巨大な水性ペンが置いてある。
そしてその前にはマスターハンドがいる。
水性ペンが巨大なのは、単に普通サイズだとマスターハンド(クレイジーハンドも)がホワイトボードに文字が書けないからだ。
そしてその向かい側には、参戦予定の新Miiファイターと、かつてのMiiファイターの合計6人がいる。
ここで、新にMiiファイターとなった3人に、スマブラバトルイベント期間中の説明が行われるのだ。
しかしわざわざ、かつてのMiiファイターを呼んだのも理由があった。
まずは新Miiファイターに、スマブラの選手としての注意点が説明される。
バトルイベント期間中は、スマブラの選手は選手寮に住む、という事。
もちろんMiiファイターも同様に住む。
条件を満たしてから登場する『隠れ選手』は、最初から登場する選手とは別の場所にある『隠れ選手寮』に住み、
登場する条件を満たすと、選手寮へ合流する。
もちろん『隠れ』選手という事もあり、他の選手へは寮の場所は告げられない。
スマブラの選手は人気者が多いため、過激な特定選手のファンに襲撃される可能性もある。
バトルで勝った日の夕方に、負けた側の選手の過激なファンに襲われる事もあるのだ。
これは毎回出場している『レギュラー選手』はもちろんの事、Miiファイターにも起きる事なのだ。
また、Miiファイターは高い競争率の中、スマブラの出場権を勝ち取ったのだが、
書類選考や選考戦で落ちた者の『逆恨み』による襲撃を受ける事もある。
・・・という説明が出た時、
「オレも、バトルイベント開催期間前に、大勢に囲まれて襲撃されそうになったなあ・・・」
と、タツヤがつぶやいたのだった。
「ええ・・・。やはり、そういうの、あるんですか・・・」
イサムが驚いた。
「・・・あとは本人確認検査の説明だな」
Miiは『千の顔を持つ』という肩書きがある通り、顔を変える事ができる。
また、顔だけじゃなく、体形や性別も変更できる。
誰なのかわからなくなってしまうという理由により、バトルイベント期間中は顔を変えるのは禁止という規定がある。
これは他のMiiによる成り済ましなどを防止する意味もある。
不定期的に本人確認検査を、血液などの体液や頭髪などの体毛や爪などの、身体の一部を採取する事によって行う。
人間で言うDNA鑑定レベルの精密なものだ。
検査はDr.マリオが行う。
バトルイベント関連従業員にはMii種族もいて、その者も同様に、Miiファイターと同じ顔をするのを禁止する規定もある。
「・・・さて、説明は以上だが・・・。
実はかつてのMiiファイターを呼んだのは理由がある。
先程のように、新なMiiファイターに間近にバトルを見てもらうのもそうだったが」
「もしかして、今回はMiiファイターは合計6人とか・・・ですか」
ミセラが聞いた。
「いや。それは違うんだ」
「あら、そうでしたか・・・」
「実は、かつてのMiiファイター3人は・・・」
マスターハンドは、少し間を置いて説明し始めた。
「3DS/WiiUの世界のスマブラでファイターとして活躍していたのを、過去の栄光だと思ってるようだ」
「!?」
タツヤ、デレック、シュリの3人は驚いた顔をした。
マスターハンドが言う通りなのだ。彼らはすっかり、自分がスマブラのファイターだった事を、過去の栄光だと考えていた。
もちろん、現在はプライベートの方が重要だからという事もあるのだが。
「たしかに前のスマブラから時が経っているから、過去の事だと考えても仕方がない。
ましてや現在は次のMiiファイターが決定しているから尚更だ。
しかし、どうかスマブラで選手として活躍した過去を、誇りに思ってくれ。
どうか当時の事を、過去の事だと切り捨てずに考えてほしい」
「・・・」
かつてのMiiファイター達は言葉を返せなかった。
「今度のスマブラは3人は参戦できないが、時折こちらに訪問してくれ。
そして時々新たなMiiファイターに会ってほしいのはもちろんの事、レギュラーメンバーにも会いに来てほしい」
マスターハンドはそう言うと、ストラップ着きの名札ケースを3人に手渡した。
名札ケースには、新たな身分証明書が入っていた。
それには顔写真と名前、そして『元Miiファイター』という説明書きが書いてあり、写真の下には不規則な英数字が書かれていた。
「スマブラのバトルイベントの関係者の身分証明書だ。これで関係者以外立ち入り禁止場所も入る事ができるし、従業員用施設の利用もできる。
あと写真の下の英数字は、かつての本人確認検査の照合表示だ。すまんが防犯上それ以上言えないが」
「あの・・・。こちらに来る場合は本人確認検査をするんですか・・・?」
デレックが聞いた。
「いや、本人確認検査はしない。それ以前に成り済ます理由もないからな」
「たしかにそうですよね・・・」