「へえ、昨夜もまた出たのかい」
タカが言った。
場所はマリエの部屋。 今はタカと一緒に、座りながら話をしている。
話の内容は、マリエの夢に出てくる男の事だ。
「そうなの。 その人の話によると、タカの隣の空き部屋に以前住んでたって・・・」
「隣の部屋に住んでた?」
「うん。 自分が住んでた事の記憶を、ここの住人は消されたとか・・・」
「記憶を消された?」
「うん。 あとそれから、私と何かあったみたいで」
「・・・何があったの?」
「私の事、お前呼びする関係だったみたい。 ただ、記憶を消された状態なら、お前呼ばわりする立場じゃないな、って」
「なんだよそれ」
「私もわからないわ。 あと、綺麗で白い・・・? なんだかよくわからない話もあったの」
「綺麗で白い? なんだよ」
「話の途中で目が覚めたの」
「肝心な部分がわからないな 。もしかしたら、今度その男が出てきたら、真相がわかるのかもな」
「聞いてみたいわ。 タカの部屋の隣に住んでいた頃の話も」
「俺も聞きてえな。 っつーか、どうしてマリエの夢にしか出てこないんだよ。 他の住人の夢に出てこない理由も聞いてみたいし」
マリエは、タカに夢の中の男の相談に乗ってもらう事が多くなった。
もちろん、他の住人にも話したりしていたのだが、もっとも真剣に聞いてくれるのはタカであった。
そんなある日・・・
マリエの様子が少しと違っていた。
心ここにあらず、といった感じで空を見ては、ため息をついている。
そんな様子の彼女を、『島主』が見に来たのだったが、
「なんでもないです、ほっといてください」
といった、そっけない言葉しか返さなかった。
しかし、ほっといてくださいと言われて、はいそうですか、と、『島主』は引き返すわけもなく・・・。
「・・・」
やがてマリエは赤面しつつ、うつむきながら、こう言った。
「実はタカの事が好きです。 告白したいのですが・・・」
・・・・・・。
『島主』は苦い顔をした。
マリエは、タカではなく別の男性と一緒にしたいと考えているのだ。
しかし、告白しても相手がOKするとは限らない。
とりあえず告白の手伝いをする----“ふり”をした。
「どんな感じで告白すればいいですか」
マリエの問いに『島主』は「正統法で」と答えた。
「どこで告白すればいいですか」
『島主』は、「公園がいいんじゃないかな」、と答えた。
「その前に、着替えた方がいいですか」
マリエは今、黒いジャージを着ている。 最近は筋トレをする事が多いので、動きやすい服を着ているのだ。
もちろん別の服がいい、と言わんばかりに別の服を着る事を『島主』は勧めたのだが----
簡易更衣室から出てきたマリエの姿は、バスタオルを巻いただけの姿だった。
これは『島主』が、告白の服装として勧めた服装である。
「それでは、いってきます」
バスタオルを巻いただけの姿で、マリエは公園に向かった。
公園で待つマリエ。 場所は大きな木がある場所だ。
バスタオルを巻いただけの姿でドキドキしながら彼女は待っていた。
トコトコトコ・・・
背後から足音がした。もちろんタカの足音だ。
ゆっくり振り向くマリエ。
タカは、青い特撮ヒーローの服を着ていた。
もちろんこれは『島主』の勧めではなく、単にマリエに呼び出された時のままの服装をしていただけなのだ。
公園の大きく綺麗な木の下で、バスタオル姿の女性と、特撮ヒーローの服を着た男性がいる、という滑稽な光景なのだが、本人は至って真剣だ。
軽くうなずいて、マリエが言った。
「いつもあなたのそばにいたいです。 付き合ってください」
しばらく沈黙が流れた。
タカは深くうなずき、こう言った。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
この瞬間、この2人の関係は「友達」から「恋人」に変わった。
「早くマンションに戻るぞ。 そのままだと風邪ひくぞ」
タカが言った。
・・・そんな様子を、『島主』は、じっと見ていた。
いや、じっと見ざるを得ないのだ。
『島主』は、あくまで住人にアドバイスしたりサポートするだけなのだ。
その日の夜。
「マリエ・・・」
例のごとく、マリエの夢に、あの男が現れた。
「また、あなたなのね」
「・・・すまん。 やっぱり現れない方がいいか。 未練がましいし、オレは今はこちらの島の住人でもないしな」
「あ! 待って! 聞きたいことが山ほどあるの」
「何だい」
「こないだ、私とはお前呼びする関係だって言ってたわね。 どんな関係だったの? それから、綺麗で白いって、何? あと、記憶消したのは誰?」
矢継ぎ早に質問をするマリエに、男は戸惑った。
「あ・・・。 ・・・わかった。 説明するよ・・・」
「まずはオレと、かつてのマリエとの関係だ。 あと、綺麗で白い物の話も同時にする。
綺麗で白い物とは、ウエディングドレスの事だ。 ヴェールも着けて、手には花束を持ってた・・・」
男の、その言葉に、マリエは驚いた。
「わ・・・私・・・。 あなたの妻なの!?」
「ああ。 マリエとオレは結婚して、新婚旅行にも行った。 しかしその直後に俺の存在と住人の記憶を消されてしまったので、マリエは未婚で恋人もいない状態になった」
「記憶を消したのは誰・・・?」
「・・・すまんがそれは言えん。 言ったらマリエの存在までも消されるかもしれん」
「構わないわ。 納得いかないもの!」
「いいのか、お前」
と、男が念を押したが、直後に「あ、すまん。 またお前呼びして」と、言い直した。
「・・・記憶を消したのは誰なの・・・?」
「さっきも言ったが、マリエの存在まで消されるかもしれないんだぞ! いいのか? 今日からタカの恋人なんだろ? タカが悲しむぞ!」
「------!」
絶句したマリエだったが、直後にこう言った。
「あなたの話がその通りなら----私の存在が消されたら、住人から私の記憶が消されたうえに、タカは恋人がいない状態に戻るのでは・・・?」
「ああ、やっぱり見透かされたか・・・。 そうだよ。 消されたらそうなるんだよ」
「・・・」
「もういいだろ・・・。 追及するなよ。 ・・・オレと同じ道をたどる者が、これ以上出ないためにもな!」
男は大声でそう言って、姿を消した。
「あ・・・待って!」
・・・がばっ!
マリエは目を覚ました。
今はまだ、部屋の中も、外も、まだ真っ暗な時間であった。
暗闇の中で、彼女は茫然としていた。
頭の中がゴチャゴチャしているが、最終的には、こういう疑問が頭をよぎった。
-----住人の存在を消したり、記憶を消したりしているのは、誰-----?